60歳になった私からあなたへの手紙
Yuu
第1話
あなたと私が出会ってもう41年が経ちますね。
こうやって私があなたに手紙を書くのはあなたの告白の返事をするとき以来って考えたら時間が経つのはあっという間だと思います。
私たちも60歳になって子供たちは結婚して孫が生まれて、いつの間にか2人だった家族が大所帯になっていて繋がりってすごいですね。
覚えていますか?
あなたと私が初めてデートしたこと。もう41年前になるからあなたは覚えていないかもしれないけど、私はちゃんと覚えています。
まだ学生でお金も車もなくてバスに乗って海に行ったのが私たちの初めてのデート。どうして夏じゃないのに海?と思ったけど、あなたは顔に似合わずロマンチックな雰囲気が好きで私と一緒に海を歩きたかったといってくれた時は嬉しさよりも笑ってしまいそうになるのを堪えるのに必死だった。でも寒い海であなたが繋いでくれた手の温かさも同じくらい覚えている。
それからは二人でいろいろなところに遊びにいって、大学を卒業した2年後の冬に同じ海でプロポーズをしてくれました。
夕陽が沈みかけて水面に夕陽の赤みが帯びはじめたとき
「結婚してください」
私が振り返るとあなたは片膝をついて指輪を私に差し出していた
こんな王道シチュエーションでプロポーズしてくれるんて考えていなかったし、プロポーズしてくれたあなたの顔が沈みかけている夕陽ぐらい真っ赤になっていて、相当恥ずかしいと思いながら私に気持ちを伝えてくれたんだろうなと思ったら考える間もなく返事をしていた
「こんな私でよければあなたの傍に居させてください」
こうして私たちは家族になりました。
結婚して1年後の夏に長男が誕生してその2年後には次女が誕生してさらに2年後には三男が誕生して結婚して5年で私たちの家族は5人になりました。
毎日が大変で私は子育て、あなたは仕事。本当に一日一日を生活していくのが必死だったけど、大変さと同じぐらい幸せを感じていました。
夜になるとあなたと二人で話す時間は私にとっての秘密の休息タイムだったのはここだけの秘密です。
子供たちが成長して自立して私たちが50歳になるころには三男も家を出て私たち二人だけの生活が始まったけど、初めて住み始めたときとは全然違っていましたね。
二人で何を話せばいいのか?休みの日は二人で何をするのかな?とかを考えていました。でもそんなときにあなたが「久しぶりに向日葵をみにいかないか?」と言ってくれて。あのとき一緒にみた向日葵は本当に綺麗でした。それからは昔に戻ったようにあなたは私をいろいろなところに連れて行ってくれて、初めて見る場所、昔一緒に行った場所。今の私たちの中に新しい思い出がたくさん増えました。
2人の時間も楽しかったけど、孫が誕生してからはまた私たちの人生はさらに変わったかもしれないです。子供と一緒にいる時間も幸せだったけど、孫を見ている時間は違った幸せが溢れていて「じぃじ」と初めて読んでくれた時のあなたの表情は今まで私がみたことがないぐらい嬉しそうで幸せそうでした。私も「ばぁば」と初めて呼ばれたときは同じような表情をしていたのかもしれないけど。
私はあなたに出会えたから今の幸せがあると思います。
結婚して子供が生まれて、孫が生まれて。
私の人生にたくさんの色をつけてくれたのは間違いなくあなたです。
あなたには伝えたい感謝はたくさんあるし今まで恥ずかしく言えていないこともたくさんあります。
でも今日は60歳の節目だからちゃんと伝えたいと思います。
出会ってくれてありがとう
私を選んでくれたありがとう
子供たちを愛してくれてありがとう
私を大事にしてくれてありがとう
「お祖母ちゃんいくよ」
「はぁい」
「なにしていたの?」
「手紙を渡していたんだよ」
「誰に?」
「お爺ちゃんに」
「ずるい、私もお爺ちゃんにお手紙渡したい」
「いいよ。お家に帰ったら一緒に書こうか?」
「でもお爺ちゃんみてくれるかな?」
「みてくれるさ。だってあーちゃんが初めてじぃじって呼んでくれた時のあの人の顔は私は一度もみたことがないぐらい嬉しそうにしていたんだよ」
「そうなんだ。私覚えていないや」
「あーちゃんはまだ赤ちゃんだったからね」
「でもお爺ちゃんの膝の上があたたかくて好きだったのは覚えているよ」
「じゃぁそれもお手紙書いておかないとね」
「うん。お祖母ちゃんは手紙に言いたいこと全部書けたの?」
「ちゃんと書いたよ」
「それならよかった」
「うん。帰ろうか」
私たちは手を繋いでその場所を後にする
「あっ」
「どうしたの?」
「一つ書き忘れていたと思って」
「なぁに?」
私は振り返りその場所に向かって
「またね、大好きだよ」
そう言い残しまた振り返った
「俺も大好きだよ」
「えっ?」
もう聞こえないはずのあなたの声が聞こえたような気がした
60歳になった私からあなたへの手紙 Yuu @sucww
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