第7話 リリア視点2
村長の家の居間には、父と母、そして村の主要な者たちが集まっていた。
いつもの穏やかな雰囲気はなく、張り詰めた緊張が支配している。
父は険しい表情でルカを見つめると、静かに口を開いた。
「村の外れで奇妙な光が見えるとの報告があった」
その言葉に、私の胸がざわめいた。まさか——。
「アビス……?」
父の顔がさらに険しくなる。
「今のところは断言できん。ただ、魔物が出てくる可能性が高い。すぐに調査に向かう」
私の心は不安でいっぱいだった。
アビスはこの世界の謎。
そこから湧き出る魔物は、普通の武器では歯が立たないこともある。
それでも、父は村を守るために行かねばならないのだ。
「私も行くわ」
私はそう言い、父の横に立った。
「私も手伝います」
驚いたことに、ルカも名乗り出た。
彼の決意に満ちた表情を見て、私は短剣を取り出し、そっと彼に手渡した。
「これを持っていって。魔物が襲ってきた時のために」
ルカは短剣を受け取り、しっかりと握りしめた。
その目には覚悟が宿っている。私は心の中でそっと祈った。どうか、無事でいて——。
---
森は静まり返っていた。月明かりが木々の隙間から差し込み、地面にゆらめく影を落としている。風の音さえ、どこか遠く感じられた。
「光はあの辺りから見えたはずだ」
父が前方を指し示す。そこには、幽霊のような青白い光が、ゆらゆらと漂っていた。
「やっぱり……アビスの光……」
その瞬間、不気味なうなり声が響いた。
「来るぞ!」
闇の中から巨大な魔物が現れた。漆黒の毛に覆われた狼のような姿。赤く光る目が獲物を狙うようにギラギラと輝いている。
「散れ!」
父の叫びと同時に、私はルカの手を引き、茂みに身を潜めた。
「ルカ、ここにいて。動かないで」
そう言い残し、私は短剣を構えて前へと踏み出した。村のために、父のために、私は戦うと決めていた。
剣と牙がぶつかり合う音が響く。
父たちは懸命に応戦しているが、魔物は素早く、攻撃をかわしながら隙を突いてくる。
私は焦りを感じた。
その時——。
「えいっ!」
小さな衝撃音が響いた。
驚いて振り返ると、ルカが石を拾い、魔物に向かって投げていたのだ。石は魔物の頭に直撃し、一瞬の隙を作る。
「よくやった!」
父の剣がその隙を突き、魔物の急所を貫いた。断末魔の叫びが森に響き渡り、魔物はついに沈黙した。
私は息を整えながら、ルカに駆け寄った。
「ルカ……大丈夫?」
彼は緊張した面持ちのまま頷いた。
「うん……少し怖かったけど、役に立ててよかった」
私はルカの手をぎゅっと握った。
「ありがとう、ルカ」
---
村に戻った後も、父たちは会議を続けていた。私はルカと共に外で月を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「あの光がアビスの入り口……そこに何があるのか、誰も知らないのよ」
「入った人は、戻ってこないんですよね」
ルカの声には、恐れと興味が入り混じっていた。
「ええ……だから、あれを封じる方法を探さなくちゃいけないの。でも、今の私たちではどうすることもできない」
私は悔しさを噛みしめた。村を守りたい。でも、力が足りない。
「僕も、何か役に立ちたい」
ルカの言葉に、私は驚いた。
彼はまだ村に来たばかりなのに、それでも何かをしようとしている。
——この人は、きっと特別な人なのかもしれない。
「……ありがとう、ルカ。じゃあ、まずは村のことをもっと知ることから始めましょう」
私は微笑み、彼の手を引いて歩き出した。
---
翌朝、会議の結論が出た。
「大都の冒険者ギルドに依頼するしかない」
父の言葉に、村の人々は静かに頷いた。
「しかし、大都までは一か月かかる。その間、村はどうする?」
「一部の精鋭部隊と、あとリリアとルカを行かせる」
「えっ?」
私は驚いた。まさか、私たちも行くことになるなんて——。
「ルカ、お前は村の者ではない。大都に行けば、お前の記憶を取り戻せるかもしれん。それに、リリアが同行すれば道中の案内もできる」
私は父の言葉を受け止め、深く息をついた。そして、ルカの顔を見た。
「……ルカ、一緒に行く?」
彼の目には迷いがあった。でも、次の瞬間、しっかりと頷いた。
「はい。僕も行きます」
その言葉に、私はほっとした。そして、ルカと共に大都にいく決意を固めた。
「大都までの道のりは長いけど、二人ならきっと大丈夫よ。精鋭部隊の人たちもいることだし」
そう言って微笑むと、ルカも少しだけ、笑ってくれた。
こうして、私たちは村を出発した。大都への道のりは長く、危険も多い。それでも、私は信じていた。
——きっと、この旅が何かを変えると。
異世界転生録 @masuken0319
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