相合傘

帰宅して日が暮れる頃になっても雨は止まないどころか、ますます激しくなってきた。たつみに借りた折りたたみ傘は帰ってすぐ玄関で拡げて置いたおかげでもう乾いている。


「ママ、ちょっと本屋に行ってくるね」


家の中に向かって玄関から声をかけてから、たたんだ巽の傘をエコバッグに入れて、自分の大きな傘を差して本屋の方へ向かう。


巽の家は本屋への通り道なので、途中で寄って、借りた傘を返すつもりだった。


巽の家の近くまで来たら、最終下校時刻も過ぎて、ちょうど、学校の方から未夜みやと巽が相合い傘で帰ってくるのが見えた。


遠いし雨音で何を話しているのかは聞こえないが、ふたりとも楽しそうだ。


優梨ゆりは思わず路地の角に隠れてしまった。自分でも何故そんなことをしたのか分からない。


ふたりは角に隠れている優梨には気づかずに、巽の家にいちど入り、2分ほどしてまた出てきた。こんどはそれぞれに傘を差している。夕方も遅いので、未夜を家まで送っていくつもりなのだろう。


出るタイミングを失って一部始終を見ていた優梨は、ふたりの姿が見えなくなってようやく隠れた角から出る。


「……なにやってんだろ、あたし」


そのあと本屋に行って時間を潰したが、何故だか優梨は顔を合わせたくなくて、巽の家の前をそのまま素通りし、借りた傘を返さずに帰宅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る