鳥になれた男

さすらう

第1話

 これは、ある男の話である。

 男は行動力があり、多くのことを経験し、人から尊敬され、信用される人物だった。

 そんな男は、大学在学中に起業した。結果は成功だった。彼の周りには多くの人が集まり、彼は自身に満ち溢れていた。しかし、彼は欲を出し、会社を大きくしようとした。会社は徐々に売り上げが落ち廃業した。

 彼は、人生で初めて大きな挫折をしたのだ。彼は、その挫折に耐えられなかった。病んでいったのだ。ネガティブなことばかり考える。

 ある時、彼は部屋のカーテンを開けた。鳥が飛んでいた。変哲のない、いつもの風景。しかし、精神が安定していない彼は、何を思ったのか、鳥になりたいと感じた。

 そこからの彼の行動は異常だった。

 空を飛ぼうと、腕を上下に動かし、鳥もどきの動きをした。また、驚くことにそこら辺にいるミミズ、虫などを食べ始めたのだ。その内に、変な叫び声を発するようになった。髭も剃らず、風呂もほとんど入らない。彼は異様な見た目になっていた。

 そんな生活が続いていると、驚くべきことに背中から羽が生えてきたのだ。彼は喜んだ。ついに飛べる。彼の頭の中には、そのことしかなかった。

 近くの橋へ行く。「ここから飛んで小魚を食べよう。」そんなことを考えていたのかもしれない。

 彼は飛んだ。いや飛び降りた。結果、空を飛ぶことはできなかった。しかし、彼には確かに羽があった。それが現実か幻覚かはわからない。だが、彼の行動は鳥そのものだった。 

 このことから、彼はきっと鳥になっていたのだろう。ただ、飛べない鳥だったのだ。

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