ラスト·ピリオド~DM23-EX3「邪神と水晶の華」より~
歴史語部
第1話~目的無き「ゼロ」の力~
数多の生物が集う場所、超獣世界、その世界を語るに五文明の争いあり、そして紡ぐのも争いなり。
不死鳥に立ち向かう龍の歴史、武道会にて巻き起こる侍と騎士の歴史、そして時空を超えた力による平和を取り戻すための歴史。
そしてこれからも歴史は続いてゆく、戦いと共に。
五文明の一つ、光文明にはガーディアンと呼ばれる種族がいた。ガーディアンは多くの戦いを経て「文明を問わずすべてを守りたい心」と「外敵を排除したい心」と矛盾した二つの心を持つようになった。そしてその矛盾は新たな戦いを目覚めさせるのだった。
その日、その矛盾は神となりて顕現する。それははるか上空に出現した。それは語らず動かず、その場に留まるだけ。
矛盾の神-シャングリラ・ファンタジアが出した答え、それは「己をゼロにする」であった。こうしてシャングリラは五文明とは異なる「目的なきゼロの力」を得た。
シャングリラ出現を皮切りに各地で願いの集合体が形となって具現化した、
「命」をつかさどる者
「俺」の頂天に立つ者
「智」略をめぐらす者
「呪」縛をかける者
この四体の神は生まれてすぐにゼロの力を手にし、支配を開始した。この世界を己の望む世界に変えるために。
シャングリラが鎮座して幾らの時が経っただろうか、それの周りには彼を崇め奉る人々がいた。信者達は自らをオラクルと名乗り、ただシャングリラに向かって祈りを捧げた。
オラクルの信仰が始まってからしばらく経ったか。突如空に穴が空き、何かが降ってきたというニュースがオラクルのなかで話題となった。その日を境に信者は目に見えて数が増した。
数日後、降ってきたものの正体が判明した。小さいハエのような生物の幼体だという。
しかし信者の恐怖は増してゆくばかりであった。中には暴徒になる者もあらわれ信者や信者とは関係ない生物を襲うようになった。
危険は暴徒だけではない、凶暴な生物もいる。
ある日、一人の少女が生物に襲われそうになった時、男が生物を魔術で吹き飛ばした。
頭に翼の生えたその男は少女に手を差し伸べ、シャングリラのもとへ誘導する。
「私の名はヨミ、オラクルの教祖をしている。」
男はヨミと名乗り少女のケガを魔法で手当てする。
「ヨミ様、その少女は一体?」
ヨミの後ろから同じように頭に翼の生えた赤髪の男が話しかけてきた。
「この近くて猛獣に襲われたようでな、ここに連れてきた。」
ヨミは少女の手当てを済ませる。
「お嬢さん、お名前は?」ゾロスターは少女に話しかける。
「...コットンなのだわ...」
コットンと名乗るその少女にヨミは話しかける。
「コットンよ、ここで祈るといい。シャングリラ様は私たちをお守りしてくださる。」
ヨミは優しい顔でコットンに入信を勧めた。
目の前で自分を猛獣から救ってくれた教祖がいる。コットンに断る理由はなかった。
それからコットンは毎日祈りを捧げた。
ヨミもゾロスターも祈りを捧げる。この世界に平和が訪れるようにと。
空から降ってきたハエのような生物は微弱ながらも力をつけオラクルの拠点、ニルヴァーナゼニシアにたどり着いた。そこでハエが目を付けたのはシャングリラの持つ「目的なきゼロの力」だった。ハエはシャングリラにひっつき少しずつ、少しずつとその力を吸い取った。力の吸収は誰にも気づかれることもなく。ハエの体内に蓄積されてゆき数カ月がたった。突如ハエはその力を解き放ち己をシャングリラを超える神、クリス=タブラ=ラーサと名乗った。そしてオラクルたちはすぐ様信仰対象をクリスに変えた。しかしそれでもクリスを信仰せずシャングリラを信仰し続けるオラクルは少なくともいた、教祖であるヨミもシャングリラを信仰し続けていた。
しかしゾロスターはクリスに鞍替えした。そしてクリスに似た祭壇を作り我こそは新たな教祖と名乗りを上げた。
シャングリラとクリスの決定的な違い、それは目的があることだった。
クリスは自分に属したオラクルに祈り続けゼロの力を持ち「水晶の華」になる目的を与えた。
「水晶の華となり、我らが神の力となるのだ。」
今まで目的もなくただ恐怖から身を守るためだけに祈り続けていたオラクル達に目的が与えられたのは鞍替えする理由に十分であった。
しかしシャングリラには未だそのような目的はなかった。
教祖を名乗るゾロスターにクリスは唆す。
「ヨミを殺せば貴様が真の教祖だ。」
クリスはゾロスターにゼロの力を授けた。
ゾロスターは野心の強い男であった。
ゾロスターの行動は早かった。その夜にヨミをクリスの祭壇の前に呼び出し語り掛ける。
「ヨミ様、本当にクリス様を信仰する気はないのですね?」
「私は突如現れた得体のしれないものに鞍替えするほど安い教祖ではない。」
ヨミはただ静かに答える。
「そうですか...ならばお前を生かす必要はない。」
ゾロスターはヨミの身体に手を触れる。
「な゛っ!」
ヨミは高く飛びあがりゾロスターと距離をとる。
ゾロスターの攻撃を避け一息つけると思えば突如ヨミの身体は動かなくなった。
まるでなにかに支配されているように。
「なっなぜ...!なぜ動かない!!」
「ありがとうございます。クリス様...師よ、これが私の感謝の結晶だ!」
もう一度ヨミの身体にゾロスターが触れる、するとヨミの身体が見る見るうちに光り輝く鉱石になってゆく。
「師を超えることこそ最大の恩返し、今恩返しを果たし、そしてあなたはクリス様の力の一部になってもらいますぞ。」
ヨミが水晶にかわるのにそう時間はかからなかった。
クリスの祭壇にはゾロスターとクリスのみ残されヨミのいた場所には小さな結晶が残されていた。
クリスはヨミに語り掛ける。
「よくやったぞゾロスター、褒美にワシから貴様に名を授けよう。」
「本当ですか!?ありがたき幸せ!!」
ゾロスターはクリスの前に膝をつく。
「貴様に新たな名を授ける。貴様はこれよりツラトゥストラと名乗れ。」
「はい、クリス様から授かったこの名を汚さぬように一生を尽くします。」
次の日ツラトゥストラは信者を集めヨミは旅に出たと伝え、ヨミのいない間ツラトゥストラが教祖を務めること、そしてクリスから新たな名を授かったことを伝えた。
コットンは少し寂しそうな顔をした。だが彼女は信じていた、ヨミ様は必ず帰ってくると。
そしてクリスも行動を開始する。まずは手始めに自らの拠点、ニルヴァーナゼニシアを作り出し、そこにシャングリラを封印した。それでもシャングリラは抵抗もせず静かに封印された。
次に各地に散らばる四体の神を一体ずつ支配し、水晶の力を与え自らの手駒にした。クリスの持つ力は支配の力、ゼロの力と合わさったその力には神ですら抗うことはできなかった。
そして超獣世界すべての生物を水晶の華にすべく四神たちに蟲兵、アンノウンを与え各地を襲撃するように命じた。
クリスの思惑通り神の襲撃を恐れた生物たちはオラクルになる。
そして祈りを捧げ続ける。
クリスの支配は順調に進んでいた、しかし入信せず抗うものもいる。
「シャオラァ!!」
白い髪をたなびかせた青年はアンノウンを叫び蹴散らす。
青年の名は鬼丸、オラクルの支配に抵抗するチーム、黄金世代(ゴールデン・エイジ)の一人であった。
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