第3話 ミントと薬師




 いつの間にか隣に人がいた。

 異邦人トラベラーでごった返す広場を見つめているのは祖母ぐらいの歳に見える老婦人だ。今日は、という呟きから察するにこの老婦人はこの世界の住人NPCだろう。

 せっかくだし、話しかけることにすっか。我ながらに口が悪いという自信があるので、こういった相手にはなるべく丁寧になるよう心がけていくぞ。


「こんにちは。今日から俺たちの住む世界と、リンユーグの繋がりが安定して、決められた人数の異邦人トラベラーがこちらの世界へとお邪魔しているんです」

「あら、そういえば今日からだったのね。ありがとう、親切な異邦人トラベラーさん。そして、ようこそ、冒険の街ファウストへ」


 納得したとばかりに頷いた老婦人が歓迎してくれたので、本当に異世界へとやってきたような気分になった。そのまま世間話へと洒落込む。

 チュートリアルでついた師匠NPCにも思ったが、受け応えが本当に滑らかだ。俺が好むVRMMOなら、住人NPCと仲良くしておくことに何も損はない。それに、お年寄りに無体を働くのは俺がとても萎えるんだよな。


 住人NPCは各々AIで動いており、こうして異邦人トラベラーや、それこそ住人同士でコミュニケーションをとると更なる成長もしていく。この異世界で活動して生きていると思ったほうが、こっちも動きやすそうだ。


 世間話の中で、老婦人がミントという名前で街で薬師をしながら道具屋を営んでいることを知る。うーん、渡りに船〜。


「俺もこの世界では薬師を志そうとしていまして。もしよろしければ、ミントさんに先生として、薬についてのご教授願いたいのですが」

「そうなの。あなた、薬師になりたいのね。……そうね、これも絆の神様のお導きかもしれないわ。よろしくね、晩白柚さん」


 軽い通知音と共に、視界端にミッションクリアのマークがついた。あとで確認しておくか。


《初めて異邦人トラベラーが異世界の住人と師弟関係になりました。SPを10P得ました》

《〔見習い薬師・ミントの弟子〕の称号を得ました》


 ナビ妖精の声を聞きながら、スポーン位置からはそこまで離れていない、商店街的な店が連なる通りに向かう。

 ミントさん……いやこれからは先生と呼ぶか。先生はその商店街にある自分の店から来たようだ。ファンタジー感のある内装にテンションが駄々上がる。こういうのどんなゲームでもやっぱいいもんだな。あとでスクショ撮りまくろ。並ぶポーションや、冒険に使う道具であろう品々を横目に店の奥までついていく。

 まだ薬に煎じられていない色んな草の匂いがしてきた。よもぎもち食いたくなってくるな、この匂い。


「薬師について何も知らないということだから、まずは初心者用のポーションを作るところからね」

「はい、よろしくお願いします」

「弟子を取るのは久しぶりだけれど、初心者ビギナー用のセットはこの道具屋だけで揃うようになってるから大丈夫よ。この本と、基本の薬草、それと初心者用の薬師セット、これだけあれば初心者ビギナー用のポーションは全て作れるわ」

「なるほど。街の人たちも職業で薬師が出れば直ぐに買い求められるということですか」

「そうよ。ふふ、じゃあこれは最初の一歩を踏み出す弟子へ、私からのプレゼントよ」

「ありがとうございます、先生!」

「先生って呼ばれるのはいいものねえ。気分がしゃきっとするわ。それじゃあ、晩白柚さん。今日はこの本を読んで、一番初めに書いてある初心者ビギナー用のポーションを作り出すことが課題です。お水はそこにある水瓶のを使ってくれればいいわ。一度、お手本を見せるわね」


 先生の動きには無駄な動きが一切ないように見えた。うーむ、プロの腕前だ。慣れた手つきでポーションが作られていく。


初心者ビギナー用のポーションはこんな感じで作っているわ。晩白柚さんが作っている間、私は別の作業をしているけれど、何かわからないことがあればいつでも聞いて大丈夫よ」

「はい、了解です」


 店の奥にある机をひとつ借りて、まずは本を読むか。の前に、クリアしているミッションと称号の確認だ。

 最初はミッションリストに存在していなかった『住人と師弟関係になる』のミッションがクリア済みになっている。


 クエストはそれこそギルドを介して住人や異邦人トラベラーが出せるものだが、ミッションはゲームAIの管轄で、話の中で急に登場したりするし、クエストに派生したりもする。

 一応の決められたミッションや話の筋もあるのかもしれないが、同サーバー内では同じ進行にならない可能性が高いと運営から説明が出ていた。別サーバーでは同じ進行になるかもしれないが、全く違う展開になる可能性もある。いわゆるパラレルワールドが存在しているようなモンってことか? そんでもゲームが破綻しないようになってンだろうし、ゲームAIってすげえわ。


「他にクリアしてるのは……ねえな」







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