【極秘】███実験ニ於ケル被験体03ノ反応ト経過

雲居晝馬

資料099-α

 以下、此度の実験によって得られた情報資料、及び被験体03における反応と経過を報告致します。*実験の募集条件については別冊資料をご参照ください。


 第一に、研究チームは候補者の中から以下の条件に適合する検体を抽出し、身体検査を行った。(条件に関して、重要ではない幾つかは省略している)

条件1…18歳以上で身体的に健康なこと。精神異常が確認されないこと。

条件2…IQが境界知能以下であること。会話が不可能であれば尚良し。

条件3…施設管理下での半年以上の滞在が可能なこと。

条件4…二親等以内の親族がいないこと。また、試験失敗の場合の身元引受人がいないこと。

条件5…実験により発生する如何なるトラブルに関しても後日口外しないこと。万が一、これが破られる場合、規約16条の手続きに従い、職員は速やかに対処すること。


 選考により、最終的に条件に適合した被験者は5名であった。以下、詳細。

01:██ ███…年齢(18)性別(男)唯一の会話不可能な被験者。本年2月11日に成人を迎えた。条件4の二親等以内の親族に該当する者が存在するが、当被験者に関しては、2月づけで親族とは縁を切られており、実験への参加を特例的に承諾。

02: ██ ██…年齢(31)性別(男)IQは75。3年前に退職してから親もなく無職の独り身。現在は支援センターに通いつつ、アルバイトなどをして食いつなぐ。パチンコと競馬に熱中し、各所に多額の負債を貯め込んでいたが、遂に首が回らなくなったことにより今回の実験に参加。

03: ███ ██…年齢(21)性別(女)幼い頃に両親を失った後、万引きを繰り返し、少年院に入院。その後、知能障害であることが発覚し、発達障害児童の養育施設に転入。度々の暴力的素行が目立つ。

04: ██ ██…年齢(43)性別(女)39歳という年齢で13歳年下の部下と結婚。以前は知能に問題はなかったが、結婚後、部下であった夫のDVにより鬱病を発症。また過度のストレスにより右目の失明、及び知能の著しい低下。現在、夫とは離婚し、精神に問題はないが、視力と知能は回復していない。

05: ██ █…年齢(36)性別(男)3年前、事故に巻き込まれて助手席に乗っていた娘(6)は即死、本人も重症で、救急病院に運ばれた後、脳の一部を切除した。かろうじて生き残ったものの、その後妻とは離婚し、実家で暮らすようになる。そして昨年には、火の不始末が原因で自宅が全焼した。


 被験者の内、実験に成功した症例は03の1件のみであった。その他の被験体に関してはに陥ってしまったため、規約16条に基づき、丁重に処理を行った。


 以下は03の実験データである。一部、音声データを日本語対応のAIにより文字化したものが含まれる。


 5つの被験体にはそれぞれ彼らの自室を模した内装の部屋に入っていただき、24時間体制で専属の職員、医師、博士のもと、室内に取り付けられた監視カメラで各人を監視した。

 被験体が入室すると、外部から施錠されて自分の意思での退室は不可能である。トイレや食事などは完備されているが、ひとりでできない者にはロボットによる補助を施す。幸い03は問題なかった。

 03の実験と監視を担当したのは戸井博士である。

 以下、音声データの文字起こししたものの抜粋。


1日目12:02

戸井:では準備はよろしいですか。これ以降は実験終了まで外出は許されませんが

03 :いいです

戸井:何か困ったことがあればぜひ逐一の報告をするように

03 :はい


1日目23:10

03 :すいません、これ今も見られてるんですか

戸井:はい、基本的にあなたが実験に参加している間は私があなたを監視することになっています

03 :なるほど


2日目09:02

03 :………(口をしきりに動かしているが管理者側のマイクのスイッチがオフなので聴こえない)

戸井:どうかしましたか

03 :あの、あたしどこでおしっこすればいいですか

戸井:ああ、それなら、部屋の右奥、テレビの脇に簡易トイレがあるはずですよ

03 :いや、そういうことじゃなくて

戸井:はい?

03 :……(口を動かしている。管理者側のマイクのスイッチはオンだが音声は聴こえない)

03 :見ないどいてもらえますか

戸井:あ、ああ、すいません。たしかに。ですが、決まりなので申し訳ありませんが録画は続けさせていただきたいです

03 :あとマイクもなしにしておいてください


4日目19:53

03 :そろそろだれかと会いたい

戸井:すいませんが、できないのです

03 :でもテレビもつかないよ

戸井:テレビ見たいんですか

03 :うん

戸井:なら、好きな映画でも仰っていただければこちらで審査した上でお渡ししますよ

03 :じゃあ、キンプリのライブ映像とかありますか

戸井:キンプリ……とりあえず調べてみます

03 :うん


7日目20:32

戸井:もう15時間ほど眠っているようですが…大丈夫ですか

03 :ん〜?もう疲れた

戸井:まあ気持ちはわかりますよ。暇なら話でもしますか

03 :博士、なんか今日優しい?

戸井:……。そんなつもりはなかったのですが…

03 :まあ博士もずっと監視してる訳だもんね

戸井:ええ。それに……いや、なんでもないです。

03 :なに、気になる

戸井:はは、実はわたしにもあなたくらいの娘がいるんですよ

03 :えー、初耳

戸井:言うつもりはなかったですから

03 :一週間で気持ちが寄り添っちゃったか

戸井:情が移る、ね

03 :てか、あたしの情報とか知ってるんでしょ?あたしが捕まったこととか

戸井:まあ

03 :あの時は悔しかったなあ。知ってる?警察の人ってすごく嫌なことばっか言うんだよ?

戸井:…………。

03 :見てこれ、切り傷。施設の子と喧嘩した時にやられたの。カッターで切られたからもうだいぶ前なのにまだ跡がある

戸井:痛くないんですか

03 :いや〜その子は友達だからね。許せるってもんよ

戸井:あぁ、なるほど

03 :………。

戸井:………大変でしたね…。

03 :まあ博士の女の子はたぶん賢いからね、あたしみたいにはならないよ


8日目11:21 *映像記録内の重要箇所も含めて記述されています

03 :え、あ、博士?博士?(部屋の右奥を見つめながら、怯えたように博士を呼んでいる)

戸井:はい、どうしました?

03 :あ、あ、あの、誰ですか、あれ(部屋の右奥を指さしている)

戸井:誰…とはどういう意味ですか?

03 :見えないんですか?あれが…あれは何ですか?

戸井:あなたが見えているものの見た目を教えてください

03 :わ、わからない!ずっとこっちを見て笑ってるの!わたしの顔を見て笑ってるの!(03は涙目で叫んでいる)

戸井:(焦ったように呼吸する。職員に注意され、落ち着こうと心がける)

戸井:とりあえず見た目を教えてください

03 :え、あ、黒くて…赤い目がある…

03 :や、ねえ、近づいて来ないで!違う、あたしは…!(壁にくっつくように逃げるが扉は施錠されており、開かない)

戸井:(席を立つ。職員に制止されるも、ラボを飛び出し、どこかへ向かう)

03 :だれか…たすけて(部屋の隅に座り込み、まるで何かがいるかのように真上を見上げている)

03 :博士……

03 :(5秒ほど沈黙したあと、急に立ち上がる。なぜか眼を開けない)

03 :隱ー縺ァ縺吶°繝シ(音声入力が突然機能しなくなる)

03 :蟇縲ら李縺??よュサ縺ォ縺溘>


 記録は以上である。


 以下、弍級以下の職員による閲覧を禁ずる。


 上記資料の実験より、我々は当初の目標であった████████を捕獲。当該生命体の宿主となった被験者の、日本国における総数は今回で9体目となる。これにより、████連盟との███合意に要する個体数は残り1体となる。

 2001年9月●●日の████連盟との接触以降の、我々の精神科学分野における発展を鑑み、当実験を最優先に実行するとともに███合意の徹底した遵守を職員一同に求める。












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