淡雪の冠

優涼 雪

プロローグ


粉雪を含んだ冷たい風が少年に吹き付けた。


目の下は涙の跡で汚れ、唇は乾燥していた。


 南向きの部屋のベランダから、虚ろな瞳で下を見下ろす。


彼の目線の先には一人の男がいた。


焦茶色の毛をたなびかせる馬に乗り、何の躊躇いもないように見えるその後ろ姿を見ても少年はもう、何も感じなかった。


 無駄だった。全てが。


素晴らしく濃厚だったあの日々は、

もう続かない。

もう戻ってはこない。


これから待っているであろう至難の日々と、果てしない孤独を思い、少年は全てを諦めた。


変わらなくては。変わらなくてはならない。

このままでは、己が壊れてしまう。


少年の心を、冷たい雪が覆う。


溶けることのない氷の雪が。


少年が静かに目を伏せると、その瞳からは涙が滑り落ちた。


もう男は見えなくなってしまった。


息をするのも辛いくらいの寒さのせいで酷く青白くなった頰を、少年は、いつまでも、いつまでも涙で濡らした。

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