パラドクス・インフィニティ:時間を超える少女
katura
風見ルナ、運命の取引
夜の都会は、冷たいコンクリートの隙間にネオンの光をねじ込んでいた。湿ったアスファルトの上に立つ少女、風見ルナは深くフードをかぶり、じっと手元のケースを見下ろしていた。
「……またワケのわからないブツか」
手にしたのは、黒光りする軍用ケース。ロックがかけられ、中身を覗くことすら許されていない。だが、それが何かを気にするのは筋違いだ。彼女の仕事は「運ぶ」こと。それ以上でも、それ以下でもない。
「ルナ、時間通りだな」
声をかけてきたのは組の幹部格である男、遠藤だった。皮のジャケットに、どこか場違いな高級腕時計。ギラついた笑みを浮かべながら、彼女の手にしたケースを見やる。
「これが今日のブツだ。慎重にな。取引相手は神経質な連中だからな」
「へぇ、それで? 今回は何の薬?」
「お前が知る必要はない。お前はただ、運べばいい」
ルナは肩をすくめ、無言で頷いた。裏社会に生きるなら、余計な詮索は禁物。どんなに怪しい取引でも、深入りせずに済ませるのが鉄則だ。
遠藤はルナを車に乗せると、静かにエンジンをかけた。目的地は、湾岸の廃倉庫。取引のための「安全な場所」だった。
「……最近、妙な噂が流れてる」
ハンドルを握る遠藤が、ぼそりと呟いた。
「妙な噂?」
「武器の流通が一気に変わった。どこからか、まったく未知の技術が持ち込まれてるらしい」
ルナは眉をひそめた。
「未知の技術?」
「詳細はわからねぇ。ただ……」
遠藤はバックミラー越しにルナを見た。
「『時間を操る』なんて、とんでもねぇ話もあるらしいぜ」
ルナは鼻で笑った。
「SF映画の見すぎじゃないの?」
「俺もそう思いたいがな……」
冗談に聞こえない口調だった。だが、ルナにとってはどうでもいい話だった。
『時間を操る』? そんなものが実在するはずがない。
彼女はそんな考えを振り払うように、窓の外を見つめた。
暗い湾岸に車が静かに滑り込む。倉庫の前には黒塗りの車が二台。取引相手がすでに待っている。
ルナと遠藤が車を降りると、スーツ姿の男たちが近づいてきた。彼らは明らかに普通の裏社会の連中とは違った。スーツの内側には、異様な冷気を感じさせる雰囲気があった。
「……ブツは?」
低い声が響く。
ルナはケースを持ち上げ、ゆっくりと彼らの前に差し出した。
「これよ。急いで取引を済ませたいんだけど」
スーツの男はケースを受け取ると、慎重にロックを解除した。その瞬間、中から微かな青白い光が漏れた。
ルナは無意識に息を呑んだ。
(何、これ……?)
ケースの中に収められていたのは、小型のデバイス。まるで、何かの端末のような洗練されたデザイン。しかし、それが何なのか、彼女には見当もつかなかった。
だが、その時。
「――襲撃だ!」
轟音とともに、倉庫のシャッターが弾け飛んだ。
突如として現れたのは、全身黒い戦闘服に身を包んだ特殊部隊。
しかし、その動きは尋常ではなかった。
彼らは――『時間を逆行』しながら、戦闘をしていたのだ。
「っ……な、何!? アイツらの動き、逆再生みたいになってる……!」
銃声が響き、混乱が広がる。
ルナは目の前の光景を信じられない思いで見つめた。
(時間を操る? まさか……本当に……!?)
そして、ルナはまだ知らなかった。
この取引が、彼女の運命を大きく狂わせることになるということを――。
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