プール②

え?


日焼け止めを塗る?


藍は今日会った時から様子がおかしい。


「塗るって......」


「いやいや!私が塗るから大丈夫〜!!」


俺が話し始めた途端、茜がそれを遮る。


そりゃそうだよな。


普通に考えて姉妹で塗り合えばいい。


俺が塗る必要性がない。


それで事が落ち着こうとしていた時、再び藍が喋り出す。


「なら私が俊に塗ってもいい?」

「日焼けしたら痛いよぉ〜」


んなぁー?


「俺はだいじょ.....って何してんだ藍!」


俺が断ろうとしたその時、俺の胸にひんやりとした、か細い手が触れた。


真っ白で、夏の暑さを感じさせないほど冷たいその手は、少し震えているような気がした。


「いいじゃん!」

「私が俊に塗ってあげたいの」


藍はその手を動かさずに、まるで俺の同意を求めているかのような態度をとる。


「待って!」


その空気を変えたのは茜だった。


よし、これであかねが止めてくれて、この状況はどうにか切り抜けられる。


さあ、藍を叱ってくれ茜。


「私も一緒に塗る!」


「え?」


今なんて言った?


嘘だよな、幻聴だよな。


よし!ウォータースライダーでも行くか!


俺は浮き輪を持って立ち上がり、歩き出そうとした。


しかし、俺の両手を2人の手が掴んで離さなかった。


「分かったよ.......」


俺は大人しく座り、2人から日焼け止めをこんなにかというほど塗りたくられた。


おかげで俺の肌は歌舞伎役者並の白さだった。


今日からゆで卵として生きていくか。


「ありがとう」

「おかげでこの夏はまったく日焼けをしないで済むよ」


「「うん!」」


冗談のつもりで言ったのだが、2人から同時に返事が帰ってきて少し焦る。


「よし!なら早速泳ぎに行くか!」


こうして、ゆで卵と茜と藍は流れるプールへと向かった。




俺たちは流れるプールで浮き輪で揺られながらゆっくりと3人流されていた。


とてもシュールな絵面だ。


なんて平和なんだ。


「楽しいね〜〜」


朝の無口ぶりを感じさせないほどにリラックスしている藍を見るとなぜか安心する。


朝はなんであんなに何も喋らなかったんだろう。


今の藍からはまるで何か満たされたような、そんな感じがする。


まあ楽しければいいだろう。


「本当に気持ちいな」


「そうだね〜」


会話は基本俺と茜で展開される。


藍は喋る時はまぁ、喋るのだが、ずっとボーッしているので何を考えているかよく分からない。


そのどこかを見つめる横顔はモデル誌に載っている藍の姿そのままだった。


これが藍の水着OKになった時代の未来の姿か


「藍、楽しんでるか?」


俺が急に声をかけると、フッとこちらを向き、口角を上げるとコクコクと頷く。


「もうそろそろウォータースライダー行かない?」


そして藍が珍しく口を開いた。


なるほど、さっきからどこを見てるのかと思ってたけど、ウォータースライダーに乗りたくてずっと見てたのか。


なんだかかわいいな.....


「いいね、行こうか!」


俺たちはその流れるプールの脇に行き、ヒョイッと身をプールサイドにあげる。


その水が滴る2人の姿は神秘的とまで言えるものだった。


続く

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