T先輩ヘ
遠山ゆりえ
第1話
拝啓
梅の蕾もほころぶ今日この頃いかがお過ごしですか?
突然この様な手紙を送りつける無礼をお許し下さい。
私はT先輩の学生時代、同じサークルに所属していたAです。そんな奴がいた事を思い出していただけましたか?
T先輩のご活躍はネットで拝見しております。ストーカーではありませんのでご安心下さい。
この年になるとやたら昔のことが懐かしく、そういえばT先輩はどうしているだろうと検索していたら社内報のニュースで先輩の写真に遭遇しました。
その時まるで玉手箱を開けた浦島太郎になった様な気持ちでした。学生のT先輩が急に立派な貫禄を備えた姿に変身していたのですから…
私もあれから変わりました、もちろん。2人の子供を産んで育てました。長女は結婚し、もうすぐお婆ちゃんです。長男は大学院生で
同居してます。
大学時代、T先輩の狭い下宿にみんなで集まりワイワイ語ったのが懐かしいです。あの頃の私は将来何をしたいか曖昧で、稚拙な童話など書いていました。
先輩は「絶対成り上がってやる!」と酒の勢いもあって叫んでました。失礼ですが貧乏学生でしたよね。亡くなったお父さんよりもずいぶん長生きして、矢沢永吉ではありませんが成り上がったのですね。今までの人生を振り返って先輩は幸せでしたか?大きなお世話ですが…
私はそれなりに苦労はありましたが、まぁ幸せだと思います。思い込みが大切かもしれません。プロにはなれませんが又童話を書いてみようかと思ってます。
お互いに身体を労りつつ、楽しくこれからの人生を歩んで参りましょう。
貴重なお時間を割いて読んでいただきありがとうございました。
敬具
追伸
一方的で独りよがりな手紙を書いてから投函もせず時が経ってしまいました。
昨日T先輩の訃報を目にして愕然としております。私は一体何をやっているのでしょう。
もしあの世に住所があるのなら、誰かT先輩の住所をご存じではありませんか?
私に教えて下さい。
T先輩ヘ 遠山ゆりえ @liliana401
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます