夕暮れの月にお別れを

蒼井 芦安

明香と彼

「明香ー、放課後暇?近くに新しいスイーツショップできたらしいんだけど一緒に行かない?」

「ごめん、今日は無理。に会いに行かないといけないから。」

 親友の莉亜の誘いを断るのはこれで何回目だろう。申し訳なさと懲りずに誘ってくれる優しさを感じながら私は手短に荷物をまとめる。それから「じゃあね」と軽く手を振って、駆け足で教室をあとにした。

 学校を出てバス通りに沿って歩いていくと、十字路の歩道の前でぼんやりと立っている彼を見つけた。

「月都、何してるの?」

「何って、わかってるくせに。」

「私のこと待ってたんだ?」

 少し意地悪な言い方をすると、月都は赤みを帯びた顔を隠すように私に背を向けた。

「もう、素直じゃないんだから。」

「別に迷惑かけてないし。」

「いーえ、迷惑かけてます!月都のせいで毎回莉亜と遊びに行くのパスしてるんだよ?私にそこまでさせておいて迷惑かけてないだなんてよく言えるよね。」

 そう言うと、月都はなぜか困ったような顔をした。信号は青に変わったというのに月都は動こうとしない。

「月都ー?早くしないと置いてくよ。」

「え、ああごめん。」

「ほんと、月都って1回考え始めると他のことぜーんぶ気にしなくなっちゃうんだから。そんなんだからお祭りの日も来てくれなかったんでしょ。私ずっと待ってたんだからね。」

「それは、本当に悪かったと思ってる。」

 信号を渡りきってコンビニを通り過ぎたあたりで月都は立ち止まった。いつもそう。月都は決まってここで立ち止まる。それからいつものようにこう言うの。

「明香、ここまででいいかな。」

「ねぇ月都、ずっと思ってたけどどうしてここまでなの?前は一緒に帰ってたでしょ。それなのに今は信号渡ったらそれで終わり。それもここに来てからじゃないと一緒にいるのは無理って意味わかんないし。」

「ごめん。」

「謝ってばっかり。そんなに謝ったら何に謝ってるのかわかんないよ。それに、私は謝って欲しいわけじゃないの。とにかく明日は絶対に私と登校してよ?月都が学校に行ってないの知ってるんだからね。」

 月都は、黙っていた。

 ただ、そこに立っていた。

「月都·····?どうして何も言わないの?」

 

「ごめん、明香。もう終わりにしよう。耐えられないんだ。」

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