最後の、手料理

最後の、手料理

台所に立つ、彼女の後ろ姿が好きだった……と、この前までは言い切っていた。

大分前に、彼女とは些細な性格不和による積み重ねから、別れたはず。

それなのに、彼女は俺の家に度々ご飯を作りに来る。俺は別れてもそれとなく付き合いは出来るが、お前は無理だって言ってなかったか?

 大方、お前は優しいから無理して作りに来てるんだろう……俺は、自炊ができないと思っているから。そうに違いない。

 彼女の隣に、無言で立つ。肉のタネが、俺の立ち行かない気持ちを弾く様に、ボウルで踊っていた。

「あ、今準備してるからちょっと待ってて」

「……俺も、手伝う」

目を見開いた彼女を他所に、俺はジャガイモを冷蔵庫から取り出す。

「え? 料理できたっけ?」

「まぁ、出来るようにした」

お前が一人で料理すんのしんどいの、気づけなかったから。ジャガイモの皮を手際よく剥きながら、彼女に一瞬だけ目をやった。俺の手元を、物珍しげに見つめている。

俺は、改めて思った。

「何、見てんの?」

「いや、別の人を見てるみたいで……」

「そのまま返す」

綺麗に剥かれたジャガイモを、無意味に掌で転がした。

「お前も、別人みたい」

「……そう?」

 目を丸くする彼女は、かつての姿にない。いつも、おどおどした頼りなげな雰囲気を纏っていた彼女は、一体どこに行ったのだろう。

 だが、優しい彼女の事だ。心配で何回か作りに来てる事は間違いない。ただの、情。

 自炊ができない俺を心配して、ただ作りに来ているだけ。そこは、変わらないんだ。分かっている。

だから、俺が解放してやる。

「別人みたいだけど……世話焼きなとこは変わってない。でも、あの時みたいに、何もできない怠惰な俺じゃない」

 油を大量に首に差す感覚を蓄え、少しずつ彼女の顔を……いや、見れない。どうしてもつむじに行く。いいか、もう何の関係もないんだし。

「だから、来なくて……」

「うーん、分かってないみたいね」

  話を遮られ、彼女は腕を組む。神妙な顔をして、俺をじっと見つめた。……なに、何なんだ。お前という存在が、何一つ分からない。

「……回りくどいから、かしら。やっぱり、こういう待ちの姿勢だからダメなのね」

 満面の笑顔を、俺に向ける。おい、俺はもうそんな立場には……。

「また、作りに来るわ、何度でも……相変わらず口下手で、不器用な貴方のことが、大好きだから」

 俺は呆気に取られて、ジャガイモの持つ手を緩め、今一度しっかり握りしめた。

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