「破壊系令嬢は罠も仕掛けも心も壊す!? 死神少年は令嬢にめちゃくちゃにされました」
ろうこう
プロローグ1
「今日はどういう一日になるのでしょうか?」
「そんなもん俺が知るわけないだろ」
豪華に飾られた屋敷に美しく揃った金髪に海のような青い瞳をした少女と闇のような紫っぽい色の入った黒の髪をした執事の少年が一緒になって廊下を歩いていた。
側から見れば顔も身につける衣装も素晴らしいほどに整っている二人。完璧な主従関係であると誰もが思える。しかし……
カチッ……
「あら?」
令嬢が進んでいた床が一瞬沈むと細い針がいくつも飛んできた。少女は一瞬驚いたような顔をするものの、その全てを人差し指と中指で掴み取るとそれをいとも容易く折った。
こんな少女の命が脅かされるような状態にありながらも、少女は罠らしきものを完璧に対処するし、逆に少年は何も手出しすることもなく、この件は無かったことになった……というわけではない。
「またこんな古典的なものを、どう思いますか?」
「全部捌くあんたはバケモンだと思うな!」シャキン!
そう言うと少年はどこからかナイフを取り出して少女の首を目掛けてナイフを振り下ろした。明らかに主従の従の側としてはやってはいけないことを平気でやっている。
しかしそんな少年からもバケモノとお墨付きのついている少女は先ほどの罠と同じように冷静な顔を保ったまま、少年のナイフを挟み込み、手首を捻り、その勢いで少年はひっくり返ってしまった。
「マジかよ、あんな最小限の動きで」
「体重が軽いからでは?」
悪意という混じり気のない100パーの本心から放たれた言葉を受けて、思うところがあったのか少年の顔が顰めっ面になる。それでも、受け身を取っていた少年は再度、少女に向かってナイフを振るう。
「残念でした♪」バキン!
「やっぱ無理か〜」
この二人のこんな日常が始まったのは今からいくつか昔の話……
* * * * *
「ぎゃああ!!」
「ひいい! 誰かー助けてくれ!」
「なんで、こんなことに」
断末魔が響き渡る。疑問が浮かび上がる。この地は今現在地獄と化していた。地獄の囚人はこの地にいた騎士や使用人たち。そして執行人は黒い悪魔の面をした男であった。
執行人は軽やかに足を進めていった。その足元にはおびただしいほどの赤い水たまりができていて、その残虐な行いの結果とそれをなんとも思わない執行人の恐ろしさが残っていた。
「なんとしても逃げねば……このアゼス。ここで死ぬ愚か者ではない!」
分厚い扉の奥で大きな声を出しながら、必死に逃げようとする者。しかし、地獄の執行人はそれを逃すほど愚かでもなければ、未熟であるというわけでは無かった。
必死に慌てふためいているものを尻目に執行人はその足を一歩一歩踏みしめるように哀れな男に歩み出していた。近づいているなんて思ってもいない、扉が開いていないのだからあり得ないと思っている男は心のどこかに余裕があったのだろう。そんなものはあっけなく砕かれるなんて知りもしないで。
「貴様がクラエイヌ領主、アゼス・クラエイヌ子爵だな」
「ヒッ!」
ここには人なんているはずがない。扉も開いていないんだから侵入なんて不可能だと思い込んでいる。そんな穴だらけの心理をついたその声に男はみっともなく後退りをしてしまった。
その男のなんたる無様か。情けない声を出して、全身汗まみれ、出てはいけない水分も一緒に漏れ出している、貴族の領主としてあり得なすぎるみっともなさ。貴族のプライドをかなぐり捨てている。
「お前は何者なんだ!? 何故私の命を狙う!」
「私の名は死神。しがない暗殺者さ」
その瞬間、貴族の男の顔が一気に真っ青になった。
「し、死神だとぉ!? あの伝説の!?」
「まあ、それはどうでもいい。何故? か。それは依頼があったからに決まっているからだろう」
地獄をもたらした地獄の執行人――死神と呼ばれる暗殺者、―――はなんてこともないかのように答えた。しかし、そのことで一番納得のいっていなかったのはアゼスであった。自分たちは命を狙われる筋合いはないと、他の貴族連中に狙われないように世渡りはしっかりしていたと自負をしていた。
「貴族ではない。依頼者は貴様の領民だ」
その言葉を聞いて、アゼスの頭の中には怒りが生まれた。貴様らのような浮浪者如きが私を殺すのか! 誰が今まで面倒を見てきたと思っているんだ! と。マグマでも詰まっているんじゃないというくらいには怒りで頭の中が煮えたぎっていた。
「私でも調べたが、汚職に着服、それに不当な労働まで。黒すぎてしょうがないな」
「私は貴族だ。あんな者たちと比べるまでもない貴い命であるのだ!」
「そうか」
アゼスのその言葉を聞いて、一瞬笑みを深めた―――に逃げられるとでも思ったのか勝手に救われたかのような感覚になっていた。
「私にとっては平等な命。それだけは変わりない」トスッ……
「あ、がああ!! 血が! 血がぁ!!」
―――は優しく、慈愛のこもった表情をしながら、首にナイフを突き、引き抜いた。たったそれだけ。行ったのはそれだであった。しかし、首という人体の急所をナイフで刺されて、平気でいられるはずもなく、貴族の顔が一瞬で青くなるほどに血が吹き出していた。
「さて、依頼は完了した……」
そういうと―――は窓から去っていき、夜の闇に紛れてしまった。そして、月は赤に染まった屋敷をポツリと照らすだけであった。
* * * * *
「相変わらず貴族という連中は」
俺はその面を外して、休息をしていた。自らの根城に戻っていた俺は貴族という連中の領民を平民として、いや、酷い奴であれば奴隷かなんかみたいに扱うところに嫌気がさしていた。まあ、全員が全員そうでもないことは重々承知はしているが、胸糞悪い奴が多いのも事実ではある。
「まっ、そういう奴が一番のカモだけど」
俺の知り合いにえげつないほどの守銭奴野郎がいるから暗殺の依頼報酬がどの程度かなんていうのはすぐに習ったし、知らない奴には詐欺みたいな金額をふっかける。まあ、絞れ取れそうなラインを見極めるっていうのも仕事の重要な要点だからな。
チリーン♪
「早速、お次のお客が来やがったか。はてさて次はどんなやつを殺せるかな?」
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