私たち

第1話

空気が美味しいなんて意味の分からない言葉だって思っていた。


空気に味なんてついていないのに、人はどうしてそんな表現をしているんだろうって。



けど、昨日やっとその比喩の意味がわかった気がする。




ここは空気が美味しい。


木々や草花がのびのびと葉を揺らし、風と遊んでいる。土の匂いが歩く度に鼻の中を抜けていく。夜になれば真っ暗な暗闇にキラキラと輝く星達が何十個も綺麗に見えた。



私が今まで暮らしていた人がぎゅうぎゅうに詰め込まれた街とは違う。建ち並ぶ建物も少ないし、車通りもあまりない。


あるのは拓けた田んぼ畑ばかり。ここはいわゆる田舎だ。テレビで特集されるようなお洒落なカフェがあるわけでも、移動に便利な新幹線が通っているわけもない。



だけど私はここにやって来た。


息苦しかった生まれ育った場所を捨てて、こんな何もない所に来ることを選んだ。




「さっちゃん」


「いっくん、どうしたの?」




家の近くのちょっと寂れた公園のブランコに座っていた私に声をかけたのは、私の幼馴染で大切な人。わざわざ私の引っ越しの手伝いをするために遠い田舎まで来てくれた。

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