六話 ロボット

リアは自身の左手の義手の動作を確認していた。グーパーグーパー、可動域など一通り動かしているようだ。

それを横目で見ていたレデュガーは水を飲んでリアに聞こえるように言った。


「こっからはそっちの運転だぞ。俺は寝させてもらうからな」


「わかってるよ」


ズボンは流石に脱がないまま、こちらに灰色のシャツの状態で来たリア。ジト目でレデュガーを見て椅子を指さす。


「そろそろ交代でもいいよな?」


「…わぁったよ」


レデュガーは重い腰を椅子から上げ、機械音を立てながら椅子から立った。リアは開いた椅子に座り、左膝に右足を乗せる。

俺はようやく声をかけれるような雰囲気と思い、思っていたことを聞いてみる。


「リアさん、聞きたいことがかなりあるんですけど。…どうして俺を助けてくれたんですか」


「ん?あぁ、そのことか」


義手で肘をついて、炎を見ながら答える。


「過去にな…うちは、フィルの両親に救われたんだ」


「え?」


俺の両親がリアを救った…?予想していなかった理由に俺は口を小さく開けていた。なぜならば、それはありえないはずだからだ。


「え…俺の両親が?」


「あぁ、そうだ。君の両親には感謝している」


炎から視線を空へ移し、リアはため息をして続ける。


「だからこそ、残念に思うよ。両親には…」


「…」


俺は両膝の上に両肘を置き、両手を握り合わせる。


「フィルの両親は…どこにいるんだろうな」


それは、俺が最も知りたいことだった。俺が生まれたということは、俺には両親がいるはずだ。だが俺は両親を知らなかった。孤児院育ちのため、何も、何も知らない。

俺は慌てて椅子から立ちあがって、リアに向き直る。膝からパンが地面へ転げ落ちていく。


「リアさん、両親のことを何か知っているなら、話してください」


「フィル…」


空を見ていたリアは俺と目線を合わせる。彼女が、何か俺の両親を知っているなら、すべて知りたかった。

だが、リアは首を横に振った。


「いや…私は何も知らないんだ」


「え?」


救われた、と言ったリアなら何か知っているはずだ。少なくとも顔はしっているはずだろうと思ったが、返答は簡素なものだった。

俺は聞き返した。


「そ、そんな、何か知っているでしょう!?だってリアさんは俺の両親と接触したってことなんですよね!?」


「あぁ、確かにそうだ。だが、本当に何も知らないんだ」


リアの顔は優れていない。眉を落とし、地面を見ていた。本当に何も知らないのか。

一応命を救ってくれた恩人だ。俺がとやかく言うのは失礼だろうか。


「…すみません、リアさん。取り乱してしまって」


「いや、いいんだ。私も悪い」


気まずい空気が炎の周りに漂う。俺は無気力に椅子に座りなおすと、突然レデュガーが声を上げたのだ。


「くそ、おいマズいぞリア。アンオーダーが居る」


「…何?」


リアは椅子から立ちあがり、ホルスターに収めていた銃を取り出す。警備兵たちを撃っていた銃と同じものだ。

俺は慌てて立ち上がると、リアが左手を伸ばして俺を制止する。動くなと言うことか。


「どんなやつだ、レデュガー」


「四足型の戦闘ロボだ。一体だけみたいだな」


「うちがやる」


リアはそう言ってレデュガーの隣に立つ。レデュガーの視線の先に、確かに四足型の戦闘ロボが闊歩していた。

幸い、こちらにはまだ気づかないようで周りを観察しているみたいだ。リアは姿勢を低くし無声で呟く。


「ラッキーだな」


リアは銃を構え、信号源のコアを正確に狙う。呼吸を止め標準を固定し、トリガーに指をかける。

パヒュン。

レーザーが四足型のロボのコアに向かって飛んでいく。正確に撃ち抜かれたコアはロボから崩れ落ち、ロボ自身も力なくその場に停止し地面に転がった。


「…ふぅ、良かった。レデュガー、もう移動しよう。ここは危険だ」


そう言って銃をホルスターにしまい、荷台の方に積んである警備兵の服を取りに行こうとする。俺は大丈夫そうだと思ってリアの方に歩み寄った。


「リアさん!い…い、今のは!?」


「今の…?あぁ。アンオーダーだよ。命令の与えられてない戦闘ロボット。終戦後にも残っている命を持たない兵士だ」


戦後にも残るロボット。戦争に使われた無数のロボットの内の一つということか。あのように動き続けることができるとは、何とも恐ろしい。

俺は咄嗟に回りを見る。闇の中、頼りになるのは炎のみ。あのようなロボットアンオーダーが来ていないだろうか?

戦争に使われたロボットアンオーダーなら殺人用ロボットアンオーダーのはずだ。未だに動き続けるならば、いつ殺されたっておかしくない。


「慌てる必要はないフィル。とりあえず急いで椅子を折りたたんで車に乗せてくれ」


俺はリアの言う通りにし、自身の座っていた椅子を見てどうにか畳もうとする。どのようにしたら畳めるのか、と思っているとレデュガーがリアの座っていた椅子をボタン一つで戻していたのを見て俺は真似をしてボタンを押し椅子を折りたたんだ。

急いで椅子やパン、ペットボトルを持って車に積み、俺は自動で開く後部座席に座り込む。レデュガーは焚火を仕舞い、リアは警備兵の装備を仕舞う。そしてレデュガーは助手席へ、リアが運転席に着いた。


「忘れ物はないな。それじゃあ出発するぞ」


車のエンジンがかかると、間もなくして車は道路に戻りリアの言う、街へと向かい始めた。

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