三話 新たな地へ

レデュガーと言われる男は、アクセル全開にして夜の都市を爆走していた。俺は後ろに重力で引っ張られシートにぴったり背中を付けていた。


「あ、あのッ!どこに行くんですか!?」


「運転中だ!ごちゃごちゃ言うんじゃねぇッ!」


ハンドルを強引に曲げ、車を華麗に避けながらどこかへとこのトラックは向かっている。後ろを見ると、ガラス越しに荷台に乗っていたあの女性が頭を押さえながら、荷台を強く拳で殴っていた。


「くそッ!運転が荒いんだよレデュガー!うちが乗っているのわかってないだろ!」


と大声で唸っているのを見て、彼の運転がヤバいと感じていたのは俺だけじゃないと少し安心した。

しかし徐々にサイレンの音がドア越しに聞こえてくる。

レデュガーはデジタルバックミラーを見て舌打ちをした。


「けッ。来るのがはえーな。まぁGPS積んでたらそりゃそうか」


そう呟いていながら都市を駆け抜ける。フロントガラスはワイパーが常に動いて雨を拭っている。

そして後ろからは、視界にはっきり見えるまでに警備兵が来ていた。

最新型のバイクに乗っている5名の警備兵が、このトラックを追っているようだ。


「来たか…」


女性はそうつぶやくと、はっきり追ってきている警備兵たちを見る。そして通信機に手を当てた。


「レデュガー!迎撃体勢に入る!だが奴らの装甲はハイテクで頑丈だ!殲滅はできないかもしれない!」


それを聞いていたレデュガーは何も返事をせず、運転に集中している。そして女性は荷台の上で、右ひざをつき、左足を荷台に、ホルスターからハンドガンサイズのレーザー銃をそっと握り銃口を警備兵たちへ向ける。


「なっ、銃!?警備兵に!?」


俺は女性の真意が未だわからないまま後部座席から見ていた。

そして次の瞬間、彼女の持つ銃口から眩い光の線が迫る警備兵たちに発射された。


「撃った!?」


着弾した位置は追ってくる5名のうち、中央にいた警備兵が乗るバイクのタイヤだった。しかし、変わらず警備兵は追ってきている。

撃った本人は、小さく歯を食いしばって再度標準を合わせる。


「何で出来てんだあのタイヤ!」


撃ったはずのタイヤがパンクしない。レーザー銃さえ通さないほどの頑丈な何かの素材か。

ただ女性はあきらめず撃ち続ける。

パヒュン。パヒュン。レーザーは夜の街に小さく輝いて飛んでいくが、バイクには全くダメージが入っていない様だった。


「クソッ。仕方ないが…」


そう言って銃の持ち手の下から空になった弾倉を落とし、満タンの弾倉を銃へと装填する。

警備兵は銃を片手で構え、射撃体勢に入る。


「撃たれるぞッ!」


俺はそう言ってシートの上で頭を低くする。

その上で、後部座席の後ろのガラスが割れる音が響いた。

パリィンッ!

警備兵たちの撃つ銃のレーザーが、ガラスをぶち抜いた。割れたガラスが体に降りかかる。


「な…あ…」


パヒュン。パヒュン。この車が撃たれている。ある一定の距離まで詰めたら、一気に打ち始めたのだ。

俺は車に当たる銃弾の音に震えながら伏せていた。開いた窓から冷たい雨が入ってくる。

荷台に乗っている彼女は大丈夫だろうか。いや、そんなわけはない。あんなに撃たれて、無事で済むわけがないはずだ。

荷台に乗っていた彼女は横をかすめるレーザーに気を留めず、レーザー銃をはっきり構えていた。


「すまない」


そして一発。

パヒュン。

雨を斬るレーザーはそのまま、中央の警備兵の首を貫通した。血が首の後ろから飛び散り、警備兵は力をどっと無くし道路へ転げ落ちる。

2発、3発、4発、5発。

レーザーは確実に警備兵の首を貫通させ、次々と道路へ転げ落ちる。バイクも運転手をなくし、勝手に近くの建物へと突っ込み炎を上げる。

サイレンは徐々に遠のいていき、彼女は追ってこないことを確認すると銃をホルスターにしまった。そのまま後部座席のガラスの方を見る。


「あちゃ…やっぱり割られていたか…」


ガラスのない窓を荷台から身を出して中をのぞく。後部座席には一人、首輪と手錠をしていた男がうずくまっている。


「ふぅ…無事か、フィル」


動いているのを確認して、彼女は窓から身を引いて、壁へ背をつけ荷台の上で尻をつけた。遠のく倒れた警備兵たちを見ながら、通信機へ手を伸ばす。


「何とか連中を殲滅した。出口は大丈夫か?」


通信を聞いたレデュガーはようやく呼吸を整え、その言葉に応じた。


「この街の玄関口は開いたまんまだ。行けるぞ」


レデュガーの目先には、この街の入口出口を担うゲートがあった。普段なら閉まっているはずのゲートが開いたままの状態に、運転手は口角を上げていた。

そしてゲート近くでは、閉まらないゲートに困惑している警備兵が何人か見て取れる。


「おい、なんで閉まらないんだ!」


「んなもん俺が知るかってんだ!緊急時は必ず閉まるようになってんのはてめえも知ってんだろ!」


「ごちゃごちゃうるせえぞ!今本部に連絡を取ってるから黙ってろ!」


30m以上はある巨大な街のゲート。それはこの街を囲う防壁の出入り口の一つだ。

その空いているゲートに、猛スピードでピックアップトラックが迫っていた。迫るトラックに警備兵たちは驚き、咄嗟に銃を構える。


「お、おい!車が来てんぞッ!」


「何者だあいつらはッ!?」


ただただ銃を構えることしかできない警備兵たちを見て、運転手であるレデュガーは歯を見せて一層アクセルを強く踏み込む。


「どかねえと…車の下敷きだぞッ!」


遂に、トラックはゲートを強引に進み、避ける警備兵たちを横目にこの街から脱出をした。ゲート周りにいた警備兵たちは出て行く車をただ眺めているだけだった。

一旦脅威がなくなったと感じたレデュガーは右手でガッツポーズをした。


「ひゃっほうッ!またなユートリス!」


夜の雨、車に乗る3人は都市から抜け別の地へと進み始める。

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