エースの冒険(長編没案)

 砂浜を濡らす波の音。背中がヒリヒリしてくるほどの暑い日差し。どこか耳障りな虫の騒ぐ音。

 そんな中、エースは痛む体を無理やり起こしました。

 辺りを見渡すと、そこはエースの見たことの無い場所でした。海はエースの住む家の近くの海よりもずっと綺麗で、キラキラと輝いて見えます。

 木はふさふさと葉っぱが沢山ついているのではなくて、バナナの皮をむいたような広がり方をしています。木には大きな実がいくつか成っています。

エースは図鑑を見ることもめったにしなかったものですから、その木が巷で言う「ヤシの木」であることはわかりませんでした。

 しばらく周りを見渡した後に、エースは浜辺に、エースのほかにもう一人倒れていたことに気が付きました。

 まだ気を失っている様子の彼は、エースが背伸びをしても彼のあごに頭が届かないであろうほどでした。髪は短く、また威圧感のあるひげが顎の周りを囲っています。起こすために声をかけるのはどこかはばかられる彼のことを、エースはすでに知っていました。

「エスパーダさん、起きてください。エスパーダさん」

 倒れていた男、エスパーダの体をゆすると、エスパーダは低く唸り声を上げて、目を薄く開きました。照り付ける太陽がエスパーダの目を刺激します。

「う、眩し……」

 エスパーダは目を右手で覆って、身体を起こしました。しばらく座ったまま影を見つめて、目の前が穏やかになってきたころに、ふうっ、と息を吐いて立ち上がりました。そしてぐぅっと腕を上に挙げて、服に着いた砂を払って、そこでようやく辺りを見渡しました。

「ここは……?」

「僕がわかると思いますか?」

 エースは胸を張って、なぜか自信満々に返しました。太陽に負けず劣らずの表情でした。

 エスパーダもまさか答えをもらえると思って尋ねたわけではありませんでしたが、エースが言い切ったものですから、思わず面食らって、ため息までついてしまいました。

「自信満々に言うんじゃないわよ。まぁ、命あっただけ良かったわね」

 エスパーダは特に体に痛みもないことを確認すると、「ま、服はボロボロだけど」と付け加えました。エースは縮んだ服に居心地の悪さを覚えながらも、海のずっとずっと遠くの方を見ました。

「はい。まさか、こんなことになるなんて……」

「とにかく、どうにかしてこの島を出ないと話にならないわね」

「そうですね……どうしましょうか」

「とりあえず、島を探索してみない?」

 エスパーダの言葉に頷いて、エースは辺りを見渡しました。先ほど目が覚めた時よりもじっくりと、何かものを探すように見渡します。

「……あ」

「どうかした?」

「あそこになにかありますよ」

 エースは浜辺からちょっと離れた木の下に、何かがあるのを見つけました。

 駆け寄ってみると、それは斧でした。周りには、切り株がありました。

「あら、いい所に斧があるじゃない。試しにそこの木、切ってみなさいよ」

 エースはエスパーダさんの指示に従って、斧を振りかぶりました。木にしっかりと刃がくい込みます。斧を引き抜いて、もう一度同じ位置に刃を当てました。

 何回か繰り返すと、木は倒れました。木はエースたちから見て左手の方向に倒れて、重たい音を立てました。

「うん、使えるみたいね。ちょっと、その木を細かくしてちょうだい。武器も取られたみたいだから、アタシも臨時の武器が欲しいわ」

「武器?ここにカルタの人がいるんですか?」

「まさか、違うわよ。あそこに野生動物がいるでしょ?襲われたら一溜りもないじゃない」

 エスパーダはほら、と指を指しました。指した先には、エースには何かは分かりませんが、怖そうな動物がいます。狼に似たなにかです。もっとも、狼にしたって、見てもそれがそうだとは、エースにはわからなかったことでしょう。

 野生動物は幸いにも、エースたちにはまだ、気づいていないようでした。

 エースは焦って、また何回か木を切りました。先ほど切り倒した木をです。こんなところで死ぬ訳にはいきませんから、なるべく早く武器を調達する必要がありました。

 そして、少し長いですが、何とか持てそうなくらいの木の棒ができました。

 エスパーダは木の棒を持つと、うん、と頷きます。

「使いにくそうだけど、即席にしてはいい感じね」

 エースは、地面にころがった一部が欠けたままの丸太を見ました。丸太があれば、脱出が出来そうな気がしました。

「そういえば、この斧を使って脱出用のボートを作れませんか?」

「あら、そんな知恵があるの?」

「え、こう……丸太を並べるだけじゃダメなんですか?」

「転覆するわよ、下手したら」

「てんぷく?」

「海に落ちるわよ、ってこと」

 エースは理解はできていませんでしたが、納得はしたらしく、ひっそりとうなだれました。エスパーダは落ち込ませてしまったことを悟ったのか、ぽん、と軽くエースの励ますように背をたたきます。

「まぁ、まだ手はあるわ。ここに斧があるってことは、この島に人がいるってことよ」

「え?なんでですか?」

「斧を人間以外の誰が使うって言うのよ。それに、錆びてないってことは、つい最近まで使われていたってことよ。もしくは、今も使っているかも……」

「なるほど。なら、その人を探しましょう」

 さっそく探しに行こうとするエースの腕を、エスパーダさんは掴みました。

「ちょっと待って。まさか、闇雲に探すつもり?」

「やみくも?」

「特にどの辺かのあたりも付けずに探すつもりなの?それは無茶よ。この島がどのくらいの大きさなのかも分からないのに」

「なら、どうやって探すんですか?」

「逆に見つけてもらうのよ」

「え、どうやってですか?その人は、僕たちがここにいることも知りませんよね?」

「火を起こすのよ。煙を見れば、異変に気づいてくれるわ」

 エースは納得したようにうなずきましたが、その頷きはさびたブリキのようでした。とりあえず頷いておこうというのが伝わったのか、エスパーダは苦笑いをこぼします。

「よく分からないって顔してるわね。普段はそれだけの時間や量、火を出していないから見たことがないのかもしれないけど、ある程度大きければ黒い煙が上がるのよ」

「それって火事ではないんですか?」

「まさか!そんなわけないじゃないの。この位の火よ」

 エスパーダは、エースの膝の辺りを示しました。エースはようやく、その方法に危険が少ないことを理解しました。

「でも、どうやって火を出すんですか?」

「まあ、それはアタシに任せなさい。ただ、慣れてなくて時間がかかるから、エースちゃんには食べられそうなものを取ってきて欲しいのよ。キノコ以外でお願いね」

「分かりましたけど……キノコ嫌いでしたっけ?」

「そんなんじゃないわ。ただ、毒キノコの場合もあるから、見分けがつかないしやめた方がいいって話しよ」

「なるほど。分かりました。じゃあ、この辺を回ってきますね」

 ―メインクエスト 辺りを探索して食べ物を見つけよ。

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