及ばぬ鯉の。
Cyan
きっと、この想いは、最初から誰のものでもなかった。
叶わないとしても伝えたい。そう思ったときにはもう遅かった。幼い時から関わってきた彼との関係は、ほとんど兄妹のようなもので。彼はきっと、私の
「新婦の入場です」
町はずれの森の奥、静かに
緑、青、金――ステンドグラスが織りなす幻想的な模様の中に、不意に小さなシミが目に留まる。淡く滲んだそれはまるで時間に取り残された涙跡。輝きの中で孤独を抱える影。
視界の端をドレスに身を包んだ新婦が通過した。白肌に絹の純白がよく映える、細見のスタイルだ。
場にいる一同、彼女の美しさに目を奪われていたが私にとっては、タキシードをぴしりと決めた彼の方がよっぽど魅力的で、格好良い。
「似合ってるよ」
祭壇にたどり着いた二人の世界が揺らぐ。否、揺らいでいるのは私の視界の方だ。ハンカチで両目を覆っても、溢れてくるぬるい
どうしたら良かったのかな。素直に伝えていれば、その笑顔もその唇も、全て私のものだった?
祝福の声に包まれる新郎新婦が、あまりにも遠い存在に思えた。微笑みすら曖昧に揺れる瞳の向こう、私の影だけが取り残されていた。
及ばぬ鯉の。 Cyan @pulupulu_108
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