第12話
道中は思いの外スムーズに進んだ。
「麻倉、あれくれよ。煙草」
くるりと振り返り手を突き出す嘉内に、麻倉は僅かに顔を
「吸うんですか」
「普段我慢してんだ、こういう時は許せよ。
「……逸れないようにする努力はしてくださいよ。一箱、それ以上は許しません」
麻倉の内ポケットから取り出された煙草とライターを受け取り、嘉内は嬉しそうに一本咥えた。かちり、とライターで静かに火を灯し、ゆっくりと肺に煙を吸い込んだ嘉内は、満足そうに吐き出した。
途端、煙の漂ったの空間の瘴気はまるで煙の中に吸い込まれていくように浄化される。嘉内の体内に溜まった微量の瘴気も、煙草の煙と共に体外へと排出され、気分の悪さはすっきりと改善された。
嘉内の煙草は吸えば体内の瘴気を、吐けば空間の瘴気を浄化するよう渡辺が
煙草一本で嬉しそうにする嘉内とは対照的に、麻倉は大層不満そうにしていた。表情にこそそこまで出ていないが、
ほどほど歩いているとは思うが川はまだ見えない。所々に入り口同様に空間固定の札を貼り付けているため、空間を歪められて同じ道を歩かされている可能性も低い。この山が思っていたよりも広いのか、もしくは幻術でもかけられているのか、それとも距離を長く感じさせるように行く先の空間だけ歪めているのか、様々考えを巡らせる嘉内だが答えは出ない。しかし
「悪いけど、ちょっと
「柏手ですか? なんでまた」
「まぁまぁいいから」
指示の意図を確認する麻倉に答えを返すことなくやらせようとする嘉内に、小さくため息をついた麻倉は、わかりましたよと静かに返しゆっくりと深呼吸して柏手を鳴らす。鳥の
「うーん幻術、いや空間歪めてた感じかぁ?」
「……せめて柏手打ったらどうなるって説明しておいてもらえないですか?」
「いや俺も自信なかったし。まぁとりあえず川近くなってよかったわ」
うんうん、と一人納得するように頷いた嘉内は、困惑する麻倉を置いて先行しようとする。自身の起こした変化にしばし固まっていた麻倉だが、慌ててその後を追いかけた。
川辺に到着した二人は、そのまま川沿いの砂利道を上流へと歩く。川の水は想像よりも少ない。その
「下流の川の水源ってここだけじゃないんですかね? 下流は結構水があったように見えたんですけど」
麻倉の言葉に嘉内はしばし考え込む。麻倉の言葉のように水源が他にもいくつかあることも考えられるが、それにしても少ない気がする。嘉内は色々な可能性に考えを巡らせながら、仮定だが、と前置きして口を開いた。
「この空間、恐らくだけど治水工事前の状態なんだと思う」
「……となると、江戸時代のあたりってことですか?」
「治水工事によって川が整備されたのなら、このあたりに手が入っててもおかしくない。山とはいえ
嘉内の仮定は麻倉にも納得できたようで、なるほど、と一つ頷いた。
「とはいえ、それにしても水流が少ない。こりゃ上流になんかあるな」
嘉内が見つめる先には川の上流があるが、ぱっと見では特に何かおかしなところがあるわけではない。これはもっと上に上らにゃならんか、とまだまだ登山が続きそうな予感に嘉内は
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