第7話「今後について」
「へぇー、ユウは天界から来た使者で、スズリはその案内人なのか! やっぱ不思議な感じがしたのは間違いじゃなかったってことだな!」
イグニアが骨付き肉を頬張りながら言った。スズリが「あれはオークの骨付き肉だよ」と教えてくれた。
一緒にご飯を食べることにした俺たち。スズリがこれまでの説明をしていた。イグニアは頭の上にはてなを浮かべることなく、うんうんと聞いていた。天界のこととか分かるのだろうか。
「イグニアは、天界のことが分かるのか?」
「いや、噂に聞いていたくらいなんだけどな。そういう世界があるって。だから使者や案内人に会ったのは初めてだ。なんかドラゴン討伐のときよりもワクワクするな!」
そう言ってあっはっはと笑ったイグニアだった。そういえばさっき周りの人がドラゴン討伐の兵士の一人だとか言っていたな。さっきの身のこなしといい、剣の腕前も相当なものなのだろう。
「で、二人はこの後どうするつもりなんだ?」
「ああ、北のノースキャットに行ってみようかなーと思っているよー。ユウが持ってるボクジュウのことも気になるし!」
「なるほどな、ウルフがおとなしくなったとかいう、不思議な液体か。たしかにあの街ならそれが何なのか分かるかもな」
骨付き肉を食べながら、「でも」と、イグニアは話を続ける。
「ノースキャットに行くには、今のままではダメだ。あの近くにはゴブリンの巣もある。見た感じユウもスズリも、戦えそうにないしな」
俺の姿を見ながら、イグニアは言った。たしかに俺は剣も何も持っていないし、いざ戦うとなると何もできそうにない。
「たしかに、やっぱりこのままの装備ではダメだよな……」
「ああ。この村にも武器と防具が売ってるから、明日行ってみようか。それと、ノースキャットに行く前に、俺が剣術の基本を教えてやるよ」
「……え!? い、いや、それは……」
「気にすんな、偶然だけど、ここで出会った縁だ。俺に任せとけって! あ、お前らが食ってるスープもうまそうだな、俺ももらおうかな」
そう言ってスープの注文をしていたイグニア。な、なんか申し訳ない気持ちになったが、断ることもできずイグニアの案に乗ることにした。
* * *
部屋に戻った俺とスズリは、さっきの話の続きをしていた。
「なんか、イグニアっていい人そうだったね」
「あ、ああ、なんか本当にいいのかなって気持ちになるんだが……」
「まぁ、助けてもらったし、ここは甘えておくのもいいんじゃないかな! それに、ユウが剣術の基本を覚えるのは、大事なことだと思うよ」
たしかに、現世で剣道でもやっていれば少しは役に立ったかもしれない。剣道は高校の授業でちょっとかじった程度で、残念ながら俺がやっていたのは書道だ。字を書くことではウルフやゴブリンは倒せないだろう。
……ゴブリンというと、小鬼のようなイメージを持っているのだが、それで合っているのだろうか。
「……まぁそうだな、頑張ってみるか」
「うんうん、じゃあもう少しこの村にいることになるねー。あー今日はちょっと汗かいちゃったな、お風呂に入ってこようかなー」
この部屋にはお風呂とトイレもついていた。お風呂は浴槽ではなくシャワーだったが、汗を流すには十分だろう。
「そっか、お先にどうぞ」
「あれー? ユウ、気にならないのー? 可愛い女の子がお風呂に入るんだよー?」
「なっ!? い、いや、気にならないから早く入ってこい……」
「えー、つまんないなぁ。じゃあ先に入らせてもらおーっと!」
そう言ってお風呂に行くスズリだった。女の子のお風呂を見てしまったら、犯罪じゃないか。いやそんなこと言わないけど。
スズリがお風呂に入っている間、俺は考え事をしていた。
(そういえば、アルト様は俺の強い記憶から具現化する力をくれたんだよな……今日は使うことがなかったけど、明日ちょっと試してみるのもありかもしれないな)
せっかくもらった特殊な力だ、もしかしたら墨汁だけでなく、他にも使えるものがあるかもしれない。明日試してみようと思った。
……なんか、思っていた以上に異世界にすんなりと入っていけた俺だった。これなら現世よりもまだ楽しいかもしれない。
「上がったよー、ユウったら、ほんとに覗かなかったねー、つまんないなー」
「……え!? な、何を期待しているんだ……」
ふるふると首を振って、お風呂に入りすべてを洗い流す俺だった。
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