第三章 怒られたニャ! ②

🐾2 司令官の怒りMAX! 謝っても遅いです。最後通告受けましたので、もう母星に帰れません!



 モニターを見たザンレールは怒り心頭であった。もふもふ生活だけではない。フォンデュがやらかした「アイドル作って洗脳作戦」の恐ろしい顛末てんまつも見てしまった。監視システムのモニターにはテレビ局でのメンバーの醜態しゅうたいがしっかり記録されていたのだった。

(派遣してからなかなか報告が来ないと思っていたら・・・なんだあれは)

「先発隊は解散だ!作戦中止!全員呼び戻せ!」

 ザンレールは肩を振るわせ、こぶしで机を叩いた。かたわらの武官は何も言えず縮こまっている。

 司令官室の中は不気味なほど静まり返った。やがて、ふーっふーっと2度深く息を吐くと、ザンレールはにやりと笑みをうかべ、急に低い声で

「いや、呼び戻さなくていい。あいつらには帰ってくるなと伝えろ。しばらく僻地へきちにおいてやる」


 司令官がこうなると一度出した指令を変えたりはしない。長くザンレールにつかえている武官は知っているので余計な口出しはしないが、タンデュや先発隊の隊員たちのことを思うと同情を禁じ得ず、心が痛むのであった。

(間が悪かったよなぁ・・・だが、これも運命か)

 武官はふっとため息をつき、それから司令官の指示をタンデュたちに伝えるべく通信室に向かった。



 司令官からの処分を聞いたタンデュは

(何とか状況をわかってもらわなくては)

 武官を通じて司令官にビデオ通話による面会を何度か申し込み、ようやく時間をもらえたものの、

「今更なんだね?」

 ザンレールの言葉は冷たいものだった。

「司令官どの、申し訳ありません。隊員たちは決してサボっていたわけではないのであります。ネコという生き物になりすましていたのは、あの惑星を支配しているニンゲンの性質を理解するための調査でして・・・それと、結果は芳しくありませんでしたがアイドル作戦はニンゲンの心をつかみ洗脳する・・・」

「言い訳はいい! とにかく君たちに任せていたら侵攻作戦はまったく進まないことはわかった。作戦遂行は停止させる。もう、帰ってこなくていい」

「司令官どの、それは・・・待ってください。シミュレーションがうまくいかなかったのは兵器のサイレンサーに問題がありまして、それについては対策も考えております。洗脳作戦の失敗については、不眠不休で任務に当たっておりましたので、みな疲労困憊ひろうこんぱいで・・・正常な判断ができなかった点はいなめませんし・・・いや、とにもかくにも全て私の責任です。どうか部下の処分は・・・」

 タンデュの言葉はザンレールには届かなかった。彼の思考はすでに次なる作戦をどう立てるか、に移ってしまったのだ。彼の耳はクルンと違う方を向き、タンデュの声は遠くの方でぼんやり鳴っているだけだった。

 やがて

「君には失望した」

 唯一返ってきた言葉はそれで、通話は切られてしまったのだった。


 司令官とのビデオ通話が終わってもタンデュは受信機のスイッチを切ることすらできず、呆然と立ち尽くしていた。

 部下たちに何と言おう。母星くにに帰れないなんて・・・だが司令官の怒りは収まりそうにない。帰れない。もう、帰れないんだ。どうしよう? 俺たちはこれからどうなるんだろう・・・

 タンデュは絶望のどん底に突き落とされていた。


「隊長?」

 脇からシェネが呼びかけたが、タンデュは聞こえないのか反応しない。シェネ隊員は、本部からの通信で隊長が呼び出されたと聞いて様子を見に来たのだが、尋常でないタンデュの様子に次の言葉が出なかった。

 しばらくして再度声をかけてみる。

「隊長、大丈夫ですか?」

 タンデュの返答はない。シェネはタンデュの顔を覗き込むようにして、その腕にそっと手をかけ、もう一度声をかけた。

「本部からは何と言ってきたのですか?」

 タンデュはようやくシェネの顔を見た。固まっていた顔が歪む。何と言おうか、考えあぐねているようである。やがて小さくため息をついてから

「会議室にみんなを集めてくれるか」

 その表情から、これから告げられるのがどんな内容か察したシェネは〝承知しました〟とだけ返答し、皆を集めるため部屋を出ていった。

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