地球侵略に来た宇宙人ですが、猫になりすましたら地球人にモフモフ愛され、のんびりねこライフ満喫中!でも本部から叱られたのでそろそろ侵略作戦に本気だそうと思います。

オドるりど

プロローグ 地球が狙われてるニャ! ①

🐾1 地球征服を企む宇宙人が、どうやら先発隊を送り込んだらしいです



「見ろ!あの青く輝く惑星が、これからお前たちが侵攻する星だ。美しいだろう?」

 惑星プロクルパトリア連合軍ソラリス区域担当部の司令官ザンレールは自分が発した言葉が部下たちの士気を充分上げたに違いないと、ぷにぷにとした肉球で両方のほっぺたをはさんで、満足げにうなずいていた。

 このところ快進撃を続けている惑星侵攻軍は、自分たちの属するヴィアラクティア銀河の外へどんどん勢力を広げていた。ソラリス区域担当部隊も、負けずに新たな領土となる惑星への侵攻を計画しており、その第1歩に目をつけたのが天の川銀河太陽系の地球である。

 実際、今回のターゲットに選んだあの地球ほしはなかなかに美しい。先発隊を送ったらまず調査はさせるが、これだけ美しいからにはかなり快適な環境がまだ残っている。つまり文明もそれほど発達していないだろう。

(楽勝だな・・・)


 この作戦が完遂かんすいした暁には初めての別荘をこの星に作ろう。最近冷たい妻もきっと俺を見直すに違いない・・・


「司令官どの。・・・司令官どの!」


 部下の声に我に返る。200名もいるだろうか。新たな惑星侵攻のために派遣された宇宙戦艦には、新しい使命に期待をふくららませている若き戦士たちが司令官の次の言葉を待っていた。この中から特殊先行工作部隊を選抜するのだ。

ザンレールはすぐ脇に控えていた副司令官の肩をポンと叩いた。


「副司令官タンデュ。先行部隊のヘッドは君だ」

「私ですか? 司令官どのは・・・」

「私は本部を離れられないからな。君なら大丈夫だ。メンバーの選抜も任せる。惑星の調査を終えたら早々に作戦に入れ!」

「はぁ、しかし私は惑星侵攻の経験はあまりないのですが・・・」


 副司令官タンデュの言葉はザンレールには届かなかった。彼の興味はすでに別荘をどう建てるか、に移ってしまったのだ。彼の耳はクルンと違う方を向き、タンデュの声は遠くの方でぼんやり鳴っているだけだった。



(はぁ〜、気が重い。こんな重要な役目、私でなくとも・・・)

タンデュは思わずため息を漏らしそうになったが、気を取り直して部下たちの方を向いた。

「司令官どのの言葉を伝える。これから新しい惑星侵攻作戦に入るが、まずは特殊先行工作部隊を派遣する。メンバーは・・・」

タンデュは先行部隊の選抜メンバーを読み上げながらぼんやり考えた。

(そう言えば、最後に休暇を取ったのはいつだったろうか? この作戦が終了したら休みをもらえるかな)

 細身で実際の身長より小さめに見える彼の背中は、心なしかさらに小さくしぼんで見えた。




(確かに住みやすいかもしれんな)

 副司令官あらため特殊先行工作部隊隊長のタンデュは宇宙船から降り立つと周りを見渡しながら思った。大気と気象の状態 ・適切な温度・放射線量 ・食料の確保が可能か等々の事前調査は済んでいるから我々が住めることは分かっている。問題は〝快適〟かどうかだ。思った以上に空気が心地よい。どうやらこの惑星の生物は我々と生態がよく似ているらしい。司令官どのは「あれほど美しいのだから環境も良いだろう」と言っていた。別荘を持つのも悪くないかもしれない。


(だが、環境が壊されていないから文明が低いというのは短絡過ぎるのではないか?この惑星を支配しているニンゲンとやらを安易に侮ってはいけない)

 まずはニンゲンについて慎重に調査せねば。


「そのことですけど副司令官、あ、隊長どの」

 部下のルルヴェはすでにニンゲンについて調査にあたっており早速情報をつかんだらしい。母星では中央情報機関のエリートだっただけあり仕事が早い。小柄でまんまる大きな瞳がキュートな彼女は〝最強人たらし〟の異名を持つほどのコミュ・モンスターで情報収集能力はピカイチである。彼女によると、ニンゲンはなかなかどうして高度な文明を持っているようだ。

「〝どの〟はいらん。隊長でよい。何か分かったか」


「はい、隊長。建築物を見てもインフラの整備状況を見ても、決して未開な生物ではありません。視力聴力、言語能力、手先の器用さを見ても大したもんです」


 口には出さなかったが、我々には及びませんけどねとでも言いたげな口調だ。それに、とルルヴェは続ける。

「あのニンゲンったら、自分の十分の一くらいの小さい生き物の言いなりなんですの。ふふふ・・・」

 小さい生き物とはペットなのか? タンデュは首を傾げた。と同時に口の周りの長い髭が何本もくくくと内側に丸まる。興味がわいたらしい。


「〝ネコ〟っていう生き物らしいんですけど。あれでペットって言うのかしら」


 ルルヴェが言うには、ニンゲンはその〝ネコ〟のために寝床はもちろん専用のソファをあつらえ、食事以外に高級なおやつも用意する上に、それが気に入らないと拒否されればすかさず別のものを手配するという献身ぶり。膝の上に乗られたらありがたがって、それが降りるまでは一切動かずトイレも我慢するという有り様らしい。

「その〝ネコ〟とやらがこの惑星の支配者なんじゃないのか?」


「それがそうでもないみたいなんですよね」


「ふーん?」


 ニンゲンとやらを掌握するにはその〝ネコ〟になりす・・・ ふとルルヴェを見ると彼女も同じことを考えたらしくニヤニヤしている。

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