僕が女児工作員になって
独立国家の作り方
私の憧れ
第1話 もう、死ぬんだから
高校卒業を控えた2月上旬、私は自殺の名所である富士の青木ヶ原樹海に居た。
実家が古い任侠一家だったけど、新興勢力によってあっさりとその伝統は幕を閉じた。
私は来月、売られる予定だった。
こんな大して可愛くもない女子なんて、誰に需要があるんだろうと思いつつ、もう全てがどうでも良い事に思えた。
死のうかな。
覚悟を決めた私の脳裏に、一人の女子が浮かんで消えた。
小島 聡子ちゃん
私の数少ないお友達。
親友って言えるかな。
彼女にだけは、もう一度会いたかった。
この世に、唯一の心残り。
もう、白状するなら、私は彼女に恋をしていた。
どんな男子にも靡かなかった私の恋心は、不思議と聡子ちゃんだけには靡いた。
彼女は、とにかくかっこよかった。男子相手でも果敢に喧嘩するし、泣いてる私をいつも助けてくれた。
こんなドンクサい私なんてほっとけばいいのに、聡子ちゃんはいつも笑顔で話しかけてくれた。
・・・・会いたい、会いたかった。
ごめんね聡子ちゃん。私、もう死ぬんだ。
こんな私だって、知らない男のおもちゃにされて一生生きて行くなんて辛すぎるよ。
ヤクザの家に生まれた時から、いつかこんな日が来るんじゃないかって、覚悟していた。
樹海の湿った木にもたれ掛かり、私はゆっくり目を閉じた。
私の長い髪の毛が、地面に付いて湿気を吸うのがなんとも不快に感じた。おかしな話、これから死ぬのに髪の毛が濡れていたって誰も困らないじゃない。
睡眠薬は十分。死ぬときくらい、楽に逝かせてほしい。
瞼の裏に、中学1年の時の制服を着た聡子ちゃんの姿がはっきりと見えた気がした。
嫌だ、死にたくない! 死にたくないよ!
助けて聡子ちゃん! 私、あなたと未来を生きて行きたかったよ。ささやかでもいいから、女子高生として楽しい時間をあなたと過ごしたかった。
どうしてあなたは、私の前から姿を消してしまったの?
聡子ちゃんは、中学1年生の時、なんの前触れもなく突然転校してしまった。
珍しいよね、中学で転校って。
頬を一筋の涙が伝い、私は少しだけ死にあらがって、意識を失った。
夢を見た。
聡子ちゃんと一緒に居る夢だ。
おかしな話だな、死ぬのに夢を見るなんて。
睡眠薬を飲んだから、夢で合っているのかな。
でも幸せ。
最後に夢でも、あなたに会えたから。
聡子ちゃん、立派になって、なんだか凄いね。
こんな体格も、筋肉もしっかりついて。
鍛えたんだね、私、弱いから。
聡子ちゃんの、汗の匂いまでリアルにする、私もチャッカリだな、聡子ちゃんが男子になって、私を助ける夢を見るなんて。
でも、かっこいいなあ、男性になった聡子ちゃん。
きっと、彼女が男の人だったら、こんなふうに私をお姫様抱っこして、颯爽と奪って行くんだろうな。
アハハ
私は案外、強欲なんだな。
でも、いいよね神様、今くらい自分勝手な夢を見ても。
でも、でもね、どうして聡子ちゃん、自衛隊の戦闘服なんて着ているの?
・・・・ま、いいか、私、もう、死ぬんだから。
遠くから「コジマ サンソウ」って呼ぶ声がする。
なんだろう「サンソウ」って。
そうか、私の脳内では、聡子ちゃんは男になって自衛隊で活躍しているってことかな?
なんだか、正義感旺盛な聡子ちゃんらしいな。
ああ、これがもし夢でないなら、私を浚って、どこか遠い国へ連れ去ってほしい。
そして、私、あなたの為に人生を捧げるわ。
それが出来なかった事が、唯一の心残りだけど、最後にちょっと良い夢見れたわ。
ありがとう神様、私の妄想に付き合ってくれて。
さよなら、小島 聡子ちゃん。・・・・
どれくらい時間が経過したんだろう。
私は目を開ける事が出来た。
白い天井と、LEDライトが目に入る。
天国にも、天井とライトってあるんだな、なんて思っていた。
「先生、患者さん、意識戻りました!」
先生? 患者さん? 私の事?
もしかして、これは夢でもあの世でもない? ここは病院なの?
「あの、すいません、私、どうしてここに?」
「覚えていませんか? あなたは樹海で死にかけていたところを助けられたんですよ」
「えっと、私をここへ運んだ人って・・」
「ええ、地元の猟友会の人だって聞いていますけど」
「その方は?」
「私も直接会った訳ではありませんが、あなたを医院へ送って直ぐ帰られたとか」
まさか・・とは思うけど、あの聡子ちゃんそっくりな戦闘服の男性って、私の夢では無かったのかしら。
でも、それにしてはあまりにも似ていた。
神様が、聡子ちゃんを男にして、私の元へ向かわせてくれたんじゃないかって思えるほどに。
それでも、奇跡はその直後に起こった。
私は自分の目を疑ったほどなんだから。
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