第20話 帰り道、手のひら


「麗華、起きて」


「……ん、んー」


もたれていた頭を持ち上げると、瞼を閉じたまま顔を起こす。

本気で寝てしまっていた。


「もうすぐ着くから」と言って声をかけられても、少しの間ふわふわした意識のままでいた。


私の手に葵の手が重なって揺らされる。それで葵の隣で寝ていたこを思い出した。目を開けると、こちらを向いた葵とばっちり目が合って、思わず


「おはよう」


とあいさつをした。こんなに深く眠るつもりじゃなかったから、少し恥ずかしくなって手櫛で髪を直すふりをしながら目線を外す。


「ちょっと待って」


葵の手が伸びてきて、私がざっと直した髪を丁寧に直してくれる。


「ありがとう……」


『――次は、○○に到着いたします。お降りの際は足元にお気をつけください』


私の声と重なるように、目的地の停留所を告げるバスのアナウンスが流れた。

葵が手を伸ばして降車ボタンを押す。


葵が私の気持ちを知っていると思うと、不意に触れられる行動ひとつひとつを、意識せずにはいられない。

たぶんダメだ。私はこのままじゃ期待を捨てられない。

それは無駄なことだと思っているのに、自分は止めたくないと思っている。むしろ、優しく接して来る葵を、余計に好きになっていく予感がしている。


バスを降りると、帰る方向が分かれる。

葵が向き合って、じゃあねと手を振ろうとする。

その手がこちらに向けられる瞬間、まだもう少し一緒にいたいなって気持ちが湧いて、咄嗟にその手を捕まえた。

バスの中で眠ってしまったせいだ。あっという間に別れる時が来たのに後ろ髪を引かれた。明日だって会えるけど。


「葵の家まで送っていく」


「いいよ送らなくて、すぐそこだよ?」


「…すぐそこだから、一緒に行ってもいい?ううん、行きたい」


「・・・う、うん。・・・ありがとう?」


私が手を離さずにいるから、葵の視線は繋いだ手と私の顔を行ったり来たりした。

それでも葵は、離したりしなかった。

だから、私は手を引いて歩き出した。



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