私の幼馴染
@YAYANOKIMAGURE
昨日
急に現れた翼ちゃん(つばちゃん)。「え?なんでここに?」「隣いい?コーヒー飲みたくて」「どうぞどうぞ、何年ぶり?」とポツポツ話をする。久しぶりすぎて、度々目線がテーブルに下がる。小さい頃たまに遊んでもらってただけだし、そんなに仲のいい幼馴染でもないし、学年も違うし、と自分に言い聞かせながら顔を上げると、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、にこにこ微笑んでいる翼ちゃんがいる。元々端正な顔立ちで、みんなから信頼され、中心に立つ、近所の優等生だったが、12年ぶりに会った彼は、どこか触れ難い空気も纏っていた。
「え、今、家ないの?」翼ちゃんに驚かれた。
「彼氏と同棲してたけど別れたの」
「ふーん、じゃあここ来てみれば?」と渡された紙には、今、翼ちゃんが住んでいるというシェアハウスの住所が書いてあった。
正直、まったく気乗りしなかったが、長らく会っていなかったのに、親切にしてくれたので「じゃあ明日お試し?で見に行くよ」と返事をした。
「嬉しい、明日待ってるよ」と微笑みを崩さずに去っていった。
渡された住所は聞いたことのない地名で、道も入り組んでいた。なんとか辿り着いたはいいものの、呼び鈴もなければ、ポストもない、古いお寺のような建物だった。なんで翼ちゃんと連絡先を交換しなかったのだろうかと後悔した。というか大丈夫か?翼ちゃん本当にこんなとこ住んでんのか?疑問符がたくさん浮かびながらも、ゆっくりと、音を立てないように、玄関を開けた。
中は清潔感はあるが、誰もいない学校のような、暗いひっそりした雰囲気が漂っている。ごめんくださいとは言いづらい空気だ。和風な造りだからだろうか、と思いながら先へ進むと、10畳ほどの和室が2部屋あり、6人ほどが雑魚寝している。寝られる場所があればいい人用のスペースらしい。
奥に廊下が見えたので進んでみる。襖が両側に4つずつ。1つ開いている部屋があった。失礼ながら覗かせてもらう。
目を見開いた老女が布団に横になっていた。
2畳ほどの狭いスペースに布団と彼女だけ。髪はしっかり結ってあって、身なりも整えられている。まるで今にも起きだして、台所で甘い卵焼きを作ってくれそうなおばあちゃん。ただ、目をかっぴらいているだけ。
思わず顔を背け、駆けたくなる脚を抑えながら、広い和室の方にUターンした。身体が寒い。
最初の和室に着くと「あ、きたの」と眠そうに布団から顔を出している翼ちゃんがいた。この場に知り合いがいたことで、安堵のため息が出た。
「ねえ、奥の部屋なんなの?私もう帰るよ」他の人を起こさないように耳元で囁く。
翼ちゃんは「んーああそうねー」と気のない返事をしながら、私の膝に頭を乗せてきた。
驚きつつも、満更でもなかった。
なんとなく落ち着かず、手持ち無沙汰で、翼ちゃんの髪を触ってみた。昔と変わらない、少し茶色がかった透明感のある髪色で、サラサラしている。この髪質が羨ましかったなあと、そのまま頭を撫でていると、優しいお兄ちゃんはすやすや寝息を立てていた。昔は意地を張って、素直になれず、泣かされた放課後もあったのに。
今度こそ帰ろう、こんなところで長居したら何があるか分からない、そう決心して立ち上がろうとした瞬間
「こっち」
と腕を引っ張られ、布団に倒された。
「え、ちょっと」
と抵抗する力も虚しく、互いの鼻先が触れる。これはよくない。隣で寝ている人がチラッとこっちを見て背を向けた。
「いつもこういうことしてるの?私だからいいけど、勘違いされちゃうよ」と幼馴染らしく嗜めてみる。んー?と言いながら目線を合わせてくる。無言の見つめあいの末、耐えきれなくなった私は「もう出るからね」と振り切り、布団を出た。
「じゃあ俺も」と翼くんもついてきた。
私の幼馴染 @YAYANOKIMAGURE
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。私の幼馴染の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます