罰ゲームで告白したら、何故か付き合うことになった、別に好きでもない彼女との話

マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)

第1話

「好きです。付き合ってください」

 俺は、クラスの女子に告白をしていた。場所は放課後の体育館裏。定番中の定番だ。相手はクラスで、いや学校中でも一番の美少女。告白する相手としては、高嶺の花、なんて言葉では足りないくらい無謀だろう。まず成功するはずがない。

「……」

 相手の子が息を飲むのが分かった。当然だ。俺と彼女は大して接点がなかったし、唐突にこんなことを言われても困るだろう。大方、まずは言われた言葉の内容を理解しようと努めて、次にどう断るか思案しているのだろう。

「……いいよ」

「……え?」

 だが、彼女の返答は予想外なものだった。

「いいよ。付き合おっか」

 成功するはずのない告白が、何故かすんなり成功してしまった。本来なら喜ぶべき場面なんだろうけども、俺は素直に喜べなかった。

「これからよろしくね」

「……ああ」

 微笑む彼女に、俺は頬を引きつらせながら頷くしかなかった。……言えない。この告白が本気じゃないなんて。


 ……この告白が、罰ゲームで強要されたもので、俺自身は彼女のことを微塵も好きじゃないだなんて。



  ◆



 ことの発端は、テスト期間開始時にまで遡る。俺を含む男友達たちの間で、ある賭けをしようという話になった。テストの総合点が一番低かった奴は、クラスの女子の誰かに告白をする、そういう賭けだ。勿論、テストのモチベを上げるための余興ではあったが、それにしたって悪趣味だなとは思った。だが、俺自身は普段の成績が良かったし、他にも事情があったので、参加することにした。

 そして蓋を開けてみれば、結果は俺が一番成績が悪かった。テスト最終日に風邪を拗らせて、それでも無理してテストを受けたのが悪かったのだろう。辞退出来るタイミングがあったのも関わらず参加した手前、罰ゲームを回避するわけにもいかず、仕方なく俺は罰ゲームを遂行することになった。

 その相手に選んだのは、クラスでも、いや学校でも一番の美少女と名高い相手、東堂千波だった。理由は単純に、高嶺の花すぎてまず振られるであろうからだ。正直俺は恋愛に興味がなかったし、彼女が欲しいだなんて男子高校生相応の欲求もあまりなかったから、振られる屈辱さえ耐えればそれで済ませられる相手を選んだわけだ。それに、相手があの東堂ならば振られても仕方ないと、一応の面目も立つ。

 そうして臨んだ告白だったのだが―――結果はご覧の有様だった。



  ◇



 ……翌日。


「おはよう、西川君」

 朝の教室にて。俺―――西川一夜は、東堂から挨拶されていた。クラスメイトなんだから当然だろうと思うかもしれないが、それは違う。東堂はクラスでも孤立しているというか、孤高の一匹狼みたいな立ち位置の奴だ。そんな奴がわざわざクラスメイトに、しかも名前を呼びながら挨拶するなんてこと、今までならまずあり得なかった。

「お、おはよう」

「どうしたの? そんなに緊張して。あ、もしかして……」

 若干挙動不審になりながら挨拶を返す俺に、東堂は顔を近づけて、囁くようにこう言った。

「可愛い彼女に挨拶されて、思わず舞い上がっちゃった?」

「……!」

「なんてね」

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、東堂は自分の席に向かっていく。それをぼけっと見送っていると、隣の席から別の声が。

「おいおい……マジで東堂さんと付き合えたんだな」

 振り向くと、そこにいたのは眼鏡の男。賭けに参加していた男友達の一人で、このクラスでは特に仲が良い男子の、北瀬次郎だ。こいつは昨日の告白をこっそり覗いていたので、その結果も知っているはずだが……まあ、そう言いたくなる気持ちも分かる。俺だって同じ気持ちだからな。

「正直、俺が一番信じられねぇよ……昨日も、夢でも見てるのかと思ってたし」

「そりゃそうだよな~。あの東堂さんと付き合えるとか、夢としか思えないもんな」

 北瀬の声は小さくて、教室にいた他の連中には聞こえていないとは思うが……まあ、その配慮もあまり意味がなさそうだった。

「あの東堂さんが、西川に挨拶を……?」

「え、どういうこと……?」

 教室中から、困惑するクラスメイトの声が聞こえてくる。これは恐らく、特に喧伝せずとも、遠からず噂になってしまうだろう。……俺が、東堂と付き合い始めたと。

「……はぁ」

 そんな未来が頭に浮かんで、俺は憂鬱な気持ちになった。……本来なら、東堂ほどの美少女と付き合えるのだから、その棚ボタ展開を素直に喜ぶべきなのだろう。だが、俺には荷が重かった。今からでも、告白は嘘だったと謝罪するべきかもしれない。

「……ふふっ」

 だが。俺の視線に気づいて、微笑みながら小さく手を振って来る東堂を見ていると、それもさすがに躊躇われた。……東堂とは全く接点はなかったはずなのだが、何故か向こうは俺のことがお気に召したらしい。この状況で「実は嘘告でした」なんて言えるような度胸、俺にはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る