第二話 異形の友、犬彦たちとの出会い


桃太郎が旅を始めてから数日が経った。険しい山道を越え、深い森を抜ける中で、彼は孤独という感情をより強く感じていた。村では孤立していたが、少なくとも老夫婦の温もりがあった。しかし今は、広大な自然の中でただ一人。風の音と鳥のさえずりだけが彼の耳を満たしていた。


「俺は本当に鬼退治なんてできるんだろうか…」

ふとそんな弱気な思いが頭をよぎる。しかし、桃太郎は首を振り、その考えを振り払った。

「いや、俺ならできる。俺しかできないんだ。」


そんな時だった。どこからともなく低く唸る声が聞こえてきた。


## 森の中の異変


「グルルル…」


桃太郎は立ち止まり、音のする方に目を向けた。茂みの奥から鋭い目がこちらをじっと見ている。次の瞬間、茂みをかき分けて現れたのは、一匹の大きな犬だった。


その犬は普通ではなかった。体格は狼のように大きく、毛並みは黒光りしている。その瞳には知性と野生が混じり合い、不思議な威圧感を放っていた。


「お前…何者だ?」

桃太郎が問いかけると、その犬は低く唸りながらも言葉を発した。

「貴様こそ何者だ。この森に足を踏み入れる者は久しい…」


犬が人語を話したことに驚きつつも、桃太郎は冷静さを保った。

「俺は桃太郎。鬼退治に向かう途中だ」

すると犬は目を細め、不敵な笑みを浮かべたように見えた。

「鬼退治だと?面白いことを言うな、人間風情が」


## 孤独な犬彦


犬との会話の中で、桃太郎は彼が「犬彦」と名乗ることを知った。犬彦はこの森で長年一人で暮らしており、その異形ゆえに他の動物たちから恐れられ、孤立していたという。


「俺はただ強いだけだ。それだけで群れから追われた」

犬彦はそう言うと、どこか寂しげに空を見上げた。


桃太郎はその言葉に共感した。自分もまた、その特別さゆえに村人たちから距離を置かれてきたからだ。


「お前も孤独なんだな」

桃太郎がそう言うと、犬彦は驚いたような顔で彼を見る。そして少しだけその険しい表情が和らいだ。


## 友情の芽生え


「俺にはわからないんだ、この力が何なのか。でも、お前も似たようなものなんだろ?」

桃太郎の言葉に、犬彦はしばらく黙っていた。しかしやがて、小さく頷いた。


「そうだな…お前とはどこか似ている気がする。」

犬彦は立ち上がり、大きな体を伸ばした。そして桃太郎に向かってこう言った。

「いいだろう。その鬼退治とやら、一緒に行ってやる」


桃太郎は驚きつつも嬉しかった。初めて自分と同じ孤独を抱える存在に出会い、それが仲間になると言ってくれたのだから。


「ありがとう、犬彦。一緒に行こう」

桃太郎はきび団子を一つ取り出し、それを犬彦に差し出した。

「これ、おばあさんが作ってくれたんだ。一緒に食べよう」


犬彦はその団子を不思議そうに見つめた後、一口食べてみた。そして目を丸くしながら言った。

「なんだこれ…うまいじゃないか!」


二人(いや、一人と一匹)は笑い合いながら団子を分け合った。その瞬間、二人の間には確かな絆が芽生えていた。


## 新たなる旅路


翌朝、桃太郎と犬彦は共に森を出発した。一人だった旅路に仲間が加わったことで、道中の景色さえも明るく見える気がした。


その後、彼らは旅を続ける中で新たな仲間に出会った。

洗練された身のこなしと知的な瞳を持つ猿、名を猿丸。

超高速で自在に空を飛ぶ雉、名を雉之助。

それぞれが孤独を抱えていたが、互いの境遇に共感し絆を深めていった。


四人は夜空の下、焚き火を囲んで座っていた。桃太郎はきび団子を皆に分け、「みんな、ありがとう」と静かに言った。


仲間たちは頷き、温かな沈黙が彼らを包んだ。星空の下、これから始まる冒険に彼らはもう一人ではなかった。

しかし、この先待ち受ける鬼ヶ島での戦い。その中で明らかになる真実…。


---

次回、「鬼ヶ島の異変」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る