賀来さんのご褒美メニュー

もりくぼの小隊

賀来さんのご褒美ランチ 出発


賀来からいさん、一緒にランチ行きませんか?」


 昼休み、隣のデスクの乙成おとなりさんからランチのお誘いをいただく。私のような面白みのない女に声を掛けてくださるとは彼女はいつもながら優しい御方だ。


「すみません、午後から外回りついでに食べるつもりなので」


 しかし、私は若干フレームがズレてきているポンコツ眼鏡をクイと上げ直しながらランチのお断りをする。


「あぁ〜、それは残念ですねぇ。お仕事大変ですけどファイトっ、ですっ! また一緒にランチ行きましょうね」

「はい、機会があればよろしくお願いいたします」


 小賢しいほどに可愛い握り拳を二つ「ムンッ」と言った感じに振って応援ファイトを送ってくれる音成さんはなんとも可愛らしい。私が男性でしたら変にこじらせたムーブで勘違いをした事でしょう。


 ちなみにいらない豆知識ですが「ファイト」とは応援の意味で日本人は送りますが英語圏では「戦え」という意味なので通じません。韓国でメジャーな「ファイティン」もファイティング戦えの意味なのでもちろん通じません。英語圏での応援は「グッドラック頑張ってね」「ユーキャンドゥイット《君ならできる》」が一般的でしょうか。まぁ、これは推しのENイングリッシュVチューバーさんの日常英語会話講座で学んだ付け焼き刃知識なのですが、フフ。と、話がそれましたので現実に戻りましょう。


「はい、私は日本人なのでそのファイトはありがたく受け取らせていただきます」

「ん~~……賀来さんが日本人なのはよくわかりますけど、急にどうしたんです? まぁとにかくお仕事頑張ってくださいッ! 追いファイトファイト、ですッ!」


 心の声が地続きになってしまい「なんだコイツ」て感じの痛い女になってしまいましたが、乙成さんは追いファイトを二回も追加してくれました。感謝です。


「それではいってまいります」


 私は身支度を整えて、ポンコツ眼鏡を再度直しながら会社を出発するのでした。








 さて、私はここでひとつ乙成さんに謝らなければなりません。外回りに出なければならないのは事実なのですが実はそこまで急ぐ必要もなくゆとりを持ってランチをご一緒できたのです。では、なぜ断ってしまったのかというと、私は外回りという「戦い」へ赴く日には先に「ご褒美」の前払いをして向かうと決めているからです。ゲン担ぎのランチです。

 そのご褒美ゲン担ぎランチに乙成さんを連れて行けばと思ったそこのアナタ……違います、私にとっての「ご褒美」は同好の士でなければ「地獄」です。

 私にとっては「楽しい地獄」ですが、素人を巻き込むわけにはいきません。付き合って貰うにはきっとあまりに酷ですから……。

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