お菓子の家を探そう 

八無茶

童話 お菓子の家を探そう     八無茶

 今日は土曜日で学校も幼稚園もお休みです。

美空みくは七才、陽太はるたは五才、おやつのショートケーキを食べています。


「どうしたの陽太、浮かぬ顔をして」とお母さんが聞きました。

「この家がお菓子の家だったらいいのになあ」

ケーキを頬張ったまま美空が「それ、昨日のお話ね。お母さん、ほんとにお菓子の家ってあるの」と聞きました。


「あると思うよ。だけど何処にあるのかお母さんは知らない」

二人は納得のいかない顔をして顔を見合わせています。おじいちゃんの顔を見上げるようにして陽太が聞きました。

「あるとしたらどんな所にあるのかなあ」


「ジャムおじさんのパン工場は森の中だよね」

「知ってるよ。しかしパイの工場は空の上のお城の中だよね。残念。無理だな」


「何が無理なんだ」と聞かれた陽太は返事に困っています。


おじいちゃんは空想を膨らませるつもりで「そうだなあ、鬼が番をしていたり、幽霊やお化けが出るから近づいたら駄目だと言われているような場所かもしれないな」


「なぜ近づいたら駄目なの」

「お菓子の家を見つけたら、たらふく食べて怠け者になってしまうからだよ」



翌日の昼食後、二人は遊びに行く事にしました。

後片付けをしているお母さんがどこに行くか聞いても「ないしょ」と意味ありげな返事です。

二人一緒なので深く詮索するのはやめました。

「早く帰っておいでね。おやつ作って待っているから」


家を出てからしばらく歩いていると、畑の中からかかしさんの声がします。

「今日も暖かいね。どこに行くんだい」

「荒神山の鳩穴に行くの」

「あそこはお化けが出るらしいよ。怖いよ」

「もしお化けが出たらどうしたらいいの」

「じっと目を睨んで動かないこと。逃げると離れ離れになって道に迷ってしまう。

何を聞かれても喋ったら駄目。豚にされちゃうぞ。静かになったら一歩だけ下がって様子を見て、進むか戻るか考えなさい。約束だよ」



菜の花の黄色が眩しい畑を横切って、近道の小川沿いの道を進み、山に入りました。鳩穴への道は、展望所に続く登山道から別れた、狭く薄暗い道なので、怖いのと帰りたい気持ちを我慢しながら進み、やっと鳩穴に到着しました。


鳩穴は昔、小規模な噴火で出来たクレータの底に溶岩の道が地底深くまで穴として残った洞窟です。現在、臼状の穴には木々が生い茂り、その底にぽっかり溶岩洞窟が口を開いています。


「お姉ちゃん、ツルツルの岩やザラザラの岩があって危ないね」美空は黙ったまま陽太の手を引いて前に進んでいます。

突然、美空の悲鳴が洞内に響き渡りました。


「誰か居る」懐中電灯の光の先の岩陰から怖い顔をしたお婆さんがこちらを睨んで居ます。

陽太が震える小声で「お菓子の国の門番の魔法使いだよ。どうする」足も震えています。


外から聞こえる鶯の声で、少し落ち着きました。

美空が小声で「一歩下がるよ。せーの」

「あれ、消えちゃった」しばらく考えてから「今度は一歩前に出るよ」

「うあー。また現れた」と同時に一歩下がったらまた消えてしまいました。


「これ以上先に行くなと言うことだね」

「そうかなあ、光と影でそう見えるだけだと思うよ」「・・・お婆さん」と美空が声をかけてみましたが、返事はありません。恐る恐る近づいてみると普通の岩です。

「あの場所で写真を撮ったら心霊写真だね」

「お姉ちゃんすごいな。シャーロックホームズみたいだね」


穴は急に狭くなり、前には進めません。お菓子の臭いもしないので諦めて帰る事にしました。


家に帰り着くと、おじいちゃんが庭で掃除をしています。

「心配したぞ」優しく美空に聞きました。

「お菓子の国を探しに行ってたの」


「それで、あったのかな」

「無かった。だけど別の所に必ずあると思う」

「そうかなあ、お菓子の国を探したい、見てみたい、食べてみたいと考えるのは素晴らしい事だよ。しかしお菓子の家を作ってみたい、人に見せてあげたい、一緒に食べたいは、もっともっと素晴らしいことだよ」


「作れないもん」陽太が不服そうです。

「そしたら、作れる人に教えてもらおうと考える事もすばらしいことなんだよ」


「ただいま」元気に二人が家に入って来ました。

「遅かったじゃない。心配してたのよ。どこに行ってたの」お母さんの声がします。

「あのね、荒神やま・・・」と言いかけた陽太はテーブルの上を見て驚き、大声を上げました。


「うちにあったんだ。お菓子の家が!。どこで見つけたの」

美空は「わあ、きれい」と言ったまま、お菓子の家を見つめています。

「私が作ったの。おやつの時間に。帰りを待っていたのに。

今度から遠くに行く時は必ずどこに行くのか言ってから出かけるのよ」

「了解」陽太はお母さんに向かって、敬礼をしている。

      

      完


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