凪いだ心
からから
凪いだ心
お酒の勢いってすごいんだなー。
目の前で大きな声を出して笑いながら服を脱ごうとしている百合菜を見ながら俺はボーッとそう考えていた。
百合菜から「私はお酒を飲み過ぎると記憶を失うから何をするか後で教えてほしい」と頼まれて家飲みに付き合っていた。
俺はどれだけ酒を飲んでも記憶は失わないし、普段通りに行動しか出来ないから自分を見張ってもらう相手としては適任だと思ったのだろう。今日の酒代は全部持ってくれるというから俺も二つ返事で了承したのだ。
……まあ、まさか服を脱ぐレベルだとは思わなかったけど。
「この部屋暑くない!?」
「そうだね」
「樫原も脱げよ~!」
「後でね」
俺の返事なんて聞こえているのかいないのか分からない。何を言っても言わなくても百合菜は自分の言いたいことしか言わないのだ。……それは酒を飲んでいなくてもあまり変わらない気もするが。
とはいえ、今起きていることを明日伝えないといけないと思うと少しばかり気が重い。嘘を言うつもりは全くないが、これを言った後にショックを受けている百合菜を慰めるのは骨が折れそうだ。今日の酒代と思えばギリギリ乗り越えられるレベルか。
俺がいることは理解しているだろうに、百合菜は躊躇いなく服を脱いでいく。本当は止めた方がいいのだろう。無理矢理にでも服を着せるかせめてタオルケット辺りを押し付けるべきだ。曲がりなりにも異性同士なのだから俺が何も感じなくとも裸にさせるべきではない。
……でも、なあ。止めるのが面倒くさいという気持ちが勝ってしまっている。酔いが醒めた後の百合菜に説明するために労力は割けても、体を動かして止めることに労力は割きたくない。
百合菜が寝たらタオルケットは上からかけておいてやるからそれで許してほしい。もう残りは下着だけとなった百合菜を見ながら俺は少しだけ温くなったビールを一気に流し込んだ。
「な、なんで私服着てないの!!!!!!!??????」
翌朝、遠くから聞こえてきた大きい声で目が覚めた。
凪いだ心 からから @kirinomi
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