10

 目を開ければきれいな顔が目の前にあった。それは、前まではずっと見ることができていた顔で安心する顔でもある。1つは穏やかなミルクティーブラウンの髪に長いまつ毛が閉じている。もう1つは明るめの赤茶色と呼ばれる色の髪で、こちらも長いまつ毛が閉じている。静かに眺めているこの時間が結構好きだったのだ。


「んん?」


 ゆっくりと開かれる目と合う。


「おはよう、ユウ。さて、詳しい内容を聞こうかな?泣いて疲れて寝ちゃったからね?」

「おはよう、ユウ。俺も聞きたいんだよな」


 正面にいる黎央から額にキスをされながら後ろから抱き着いていた燈雅も頭にキスを落とす。それにふにゃりと笑みが浮かぶ。けれども、言われるように言及をされるんだろうなと思った。


「さて、怪我の件だけれど誰がさせたのか正直に言ってごらん?」

「本当にね、名前を知らないの」

「ならどうしてこんな風になってるかの原因は言えるか?」

「うん」


 ベッドの上に3人で並びながら両脇から腰を抱かれて顔を覗き込まれる。その顔は、さっきまで怒っていた顔よりか穏やかで安心して口を開いていた。話したらダメだと思っていたのに。この後、どうなるかなんて考えなくてもわかりきっているはずだった。


「圭藤……僕の同室が、親衛隊持ちと仲良くなったんだ。それだけだったらよかったかもしれないんだけれど、その圭藤が僕を連れまわしたんだ。それで、彼らの親衛隊に僕も目を付けられたんだ」

「それで?」

「圭藤は、親衛隊持ちの人たちに守られてるけれど僕は彼らから疎まれていて彼らも親衛隊の行動を増長させたんだ。圭藤は僕がいじめられているのを知りながら放置をしてたんだ」

「なるほどな。暴力以外は起きてないな?」

「まだ」


 そう、まだ犯されてはいない。何回か未遂はあったけれども最後まで行かなかった。それは、風紀がいるのと僕の家の人間が何人か監視でいる人たちの動きだろう。分家に回されても外に血を流してほしくないんだろうな。


「ユウ、ここに二條神の人間はいるの?」

「いる。最低限のことは見てるんだと思う。けど、彼らも僕のことは受け入れられないことだろうから、外の血を入れることだけしない様にしてるんだと思う」

「当主様は知ってる?」

「わからない。でも、聞いてないと思う」

「そっか。なら、報告してもいいよね?」

「え、あ、ダメ」


 絶対にダメなことだ。当主に報告をされたら箱庭に逆戻りになるだろう。そんなことになりたいとは思わない。だって、彼らにとっては不都合が起きたときに困るだろうから。だから、早く独り立ちできるようになって黎央と燈雅のところでいろいろとお手伝いできるようにならないといけないのに。戻されたら、このままなにもできないままの僕のままだ。


「ユウ、ゆっくり息を吐け」

「え、あ」


 上手く呼吸ができない。息を吸うことができない。燈雅が息を吐けって言ってるけれど、吸えないのだから吐くこともできない。いやだ、怖い。どうして、こんな風になるんだろう。治ったと思ったのに。


「俺を見ろ。ゆっくり、そうだ。ゆっくり合わせろ。いい感じだ。ほら、落ち着いた、な?黎央には俺から言っておくから、何か腹の中に入れろ。温めれば簡単に食べれるものばかりだから。叶汰もユウと話したいことあるだろうから、行ってこい」

「え、あ、うん」


 燈雅に落ち着かせてもらったと思ったら、部屋から追い出された。


 部屋から出たら心配そうな顔をした叶汰がこちらを見ていた。そして、目が合えばふにゃりと笑みを浮かべてこちらにゆっくりと歩み寄ってきた。


「ユウ、早く認めちゃえばいいのに」

「カナだってまだでしょう?」

「ううん、もうなったよ。だって、朔も薫も絶対に僕のことを捨てないもん」

「僕は、まだ無理だよ」

「そっか。でも、今回も見つけてもらえたんだよ。そろそろ、信じてもいいと思うんだ。箱庭の外は危険だって知っているでしょう?あそこだから僕らは安全なんだよ」

「そう、そうだね」


 叶汰が言っている箱庭だと安全は本当にその通りだろう。だって、あそこはオメガとして生きていく上では楽園と呼ばれている。どんなオメガでも入りたいと思われる場所だ。そこに入れば、アルファは優秀な人間が多いから安定して生活を送ることができる。さらに、才能があればオメガで番がいればそこで働くことも許されるのだ。

 どんなものでもこの国の中心機関が集中している場所だから、抑制剤だっていいものが多いのだ。粗悪品とかが出回っている時に比べたら安心安全といえるのだろう。


「ユウはさ、一回の出来事でこうって決めてるよね。別に悪いことじゃないと思うけど、ちゃんと話した方がいいとは思うよ?」

「でも、信用していたから裏切られたときにつらくなるでしょう。だって、愛してるって言ったのに捨てる人だっているんだから結局はわからないんだよ」


 愛してるとか大好きなんて、口だけの言葉を吐ける人間だっているのだ。だから、信じないようにしているのだ。でも信じたいと思っている気持ちもあるから、難しい。


「まあ、ユウは昔から考えすぎる癖あるからちゃんと話した方がいいと思うよ?僕ね、今度薫と朔の家にね行くんだ。それで、番になりますって報告するんだって。反対とかされても、絶対に守るって言ってくれたんだ。だから、信じようと思うんだ。ねえ、ユウ。僕らも言わないとわからないんだから、黎央と燈雅にも言わないと伝わらないと思うよ。だから、きちんと向き合って話し合いした方がいいよ」

「……うん、そうだよね。わかってはいるんだよ。でも、話してみてそれが拒否されたらどうしようって思うんだ。だから、1人でも生きていける方法を知らないといけないなって思うんだよ」

「まあ、拒否されたら僕のところに来てよ!朔と薫に燈雅と黎央のこと殴ってもらうからさ。僕の大事な友人を泣かせたいけ好かない人って言ってね」


 普段の叶汰から出る言葉とは思えない言葉が出ていた。たぶん、僕がいない間に3人の間で何か変化があったのだろう。けれど、叶汰は味方をしてくれる。もし、ダメだったとしても味方をしてもらえると思ったら気持ちが少し楽になったなと感じたのだ。

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