7

 客室とは言え、学園の賓客をもてなす構造だからリビングルームがある。穏やかなクラシックが流れるそこには似つかわしくないドアを乱暴に叩く音が広がる。そのあとに大声で叫んでいる声が聞こえた。


「おーい、起きてるかー?」


 ドンドンとさらにドアを乱暴に叩く音が再度響く。その音で、微睡んでいた叶汰が肩を揺らす。大きな音と乱暴な音が苦手な環境ということもあり、朔と薫の表情が徐々に悪いものになってきている。

 その状況に黎央と燈雅も警戒を強める。


 返事がないのをおかしいと感じたのか、ドアをガチャガチャとし始めて開かないことを確認すると大きな声で誰かを呼んでいる。その声で反応して、ドアの前に人が増えてくる気配がする。そして、鍵が開く音がでてくる。たぶん、マスターキーを利用したのだろうと思う。だとすると、生徒会のメンバーも居ることになるから早くこの状況から出ないとという焦りが生まれる。


「れ、黎央、と、燈雅離して。出ないと、こんな状況みせられ、ない」

「なんで?別に平気だよ。それに、久しぶりに会えてここにいるんだからもう少しゆっくりしてほしいな」

「そうだな。まあ、対応してきてやるよ。さっきの貸しなしな」

「もちろん、いいよ」


 2人でなにか話している。貸し借りはよくあることだけれども、今回のもきっとそれだろう。貸し借りを長期間持っていると損をするらしいのだ。2人の間でどんなルールがあるのかわからないから、口出しをしていないがたまに納得がいかない顔をしているときがある。だから、この貸し借りは優先順位を決めないといけないんだと思う。


「おい、ここは俺らのプライベートルームになるんだろ。許可なく入ってくるとはどういう了見だ?」

「あー、燈雅!いるのに無視したのか?良くないんだぞ」

「こんな時間に来る奴らに常識を問われてもなんとも思わないな」


 玄関先で会話をしているのが聞こえる。聞こえるというよりかは、聞こえるように話しているのだろう。それで、誰が来たのかすぐに理解することができた。

 圭藤と生徒会のメンバーなのだろう。それで、この部屋の鍵を開けることができたのだ。生徒会が持っているカードキーは全部屋開錠できるのだ。それが、客室であろうと可能なのは今回初めて知ったけれども。


「こんな時間って、もう9時過ぎですよ。ああ、貴方がたには時間なんて概念がないんでしたね」

「べつにあるが?基本、動き出すのは10時からだ。それで要件はなんだ?」

「あのな、10時から話し合いがあるからラウンジに来てなって言いに来たんだ。本当なら、悠馬が伝えに来るんだけれどいないから俺が教えに来たんだぞ!」

「そうか。ラウンジに行けばいいんだな。要件がそれだけなら、もういいか?」

「え?場所わからないんじゃないのか?俺が案内してやるよ」

「結構だ。悠馬に案内してもらうからな」

「そうですか。ほら、愛斗いったん僕らも行こう?準備するんでしょう?」

「そ、そうだな!待ってるかな!」


 会話を聞きながら、ぼーっとしていたからいつの間にか燈雅が隣に来ているのに気が付かなかった。

 「聞こえただろ、あと20分くらいで会議らしい。準備しろ」

「それ燈雅だけ行ってよ。俺ら、ここでカナとゆっくりとしてるからさ」

「そうだな。行ってこい」


 まるで、会議に重要性が無いように話している。それも、その筈か。彼らにとって、変更できない事柄っていこうとが少ないのだ。


「ユウ、案内してくれるよね?会議早く終わらせて2人でデートでもしようっか?」

「え、みんなで……」


 チラりと叶汰の方を見れば叶汰自身は微睡んでいるようだった。食事をして、眠くなっているのだろう。ヒートの後で体力が消耗している中での長距離移動をした弊害がいまでているのだろう。


「……案内するよ。でも、みんないなくてもいいの?叶汰は寝てるから仕方ないかもだけれど、1人だけなのはダメじゃない?」

「なんで、2人だけで行く話になってるの?もちろん、私も行くよ」

「は?来なくていい。俺とユウの2人だけで行くから」

「そうやって、ユウを独占する気かい?」


 燈雅から立つように手を指し伸ばされてそれをつかんで立ち上がろうとしたが、後ろから引っ張られた。その原因は、すぐ横にいた黎央だ。そして、黎央の膝の上に座らせられながら、2人で会話を続けていく。

 耳に息がかかる。その息で、すこしくすぐったくて少し声が漏れる。


「んッ……」


 この声を聞いて、2人が俺の方に視線を向ける。その視線がどこか、獣のようになっているのに気が付く。助けを求めるように視線を動かすといつの間にか、3人はいなくなっていた。


「なにぃ?もしかして……」

「こいつじゃないよな?俺だよな?」

「いま、だめ。会議の時間近いでしょう?」

「そんな顔してるのにオアズケとかするの?」

「相変わらずの小悪魔加減だな?まあ、あとでいいんだな?言質とったからな」


 まずいかもしれない。後でなんて言葉を言った結果がどんなことになるかなんて想像がつくけれども、会議に行く気になってくれて一安心した。


 ラウンジまで案内したら、どこかに行ってバレない様にやり過ごせばもしかしたら諦めてくれるかもしれない。そんな、オメガで成績もそこまでよくないやつがアルファの上位に位置する人の考えにかなうわけなんてなかったのだ。


「案内よろしくね」

「うん」


 黎央と燈雅が左右に居て、授業中だから生徒が少ないとはいえちらほら廊下に生徒がいる。そして、ちらちらと視線を感じるのだ。もちろん、その視線の先にいるのは黎央と燈雅だ。そして、僕を睨む視線がある。2人とも注目をされることになれているから気が付いてないのかな?いや、僕にそそがれている視線を冷ややかな目で見ているからきがついてはいるのだろう。


「えっと、こっちだから。2人ともあんまりオーラ出さないでね?これから会うのもアルファばかりだから。ね?」

「考えておく」

「検討しておくね」


 その言葉を信用できないなと思いながらも、ラウンジの扉を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る