私が一番近いのに……

水面あお

第1話

 いつもの三人組で下校して、ある分岐路まで来たところで一人が「じゃあね」と手を振って分かれていく。


 私と君も「またね」「またな」なんて声をかけて彼女を軽く見送る。


 そんな何気ない日常の場面でふと君の目を見てしまい、私の心は棘が刺さったように痛み出す。


 君があの子を見る目はいつだって特別だった。優しく見守るようで、恋焦がれるような切ない瞳。決して私には向けてくれない目だった。


 私は君の隣でこの十六年間生きてきたというのに。

 どうして、出会って半年ほどのあの子なのだろう。


 私の方が君のことを知っている。

 君が実は魚に詳しくて水族館に行くといろんな豆知識を教えてくれることも。コーヒーが苦くて嫌いだけれど、飲めるように何度もチャレンジしていたことも。小学生からずっとサッカーを習ってきたけれど、高校に入ってからはもう十分だからとやめてしまったことも。


 こんなに、知っているのに。

 君は私にその瞳を向けてくれない。


 一番近くじゃなくて、二番目に近いあの子にばかり特別な視線を向ける。


 近すぎるから、なのかな。

 私が少し離れれば、もしかしたらあの目を私にも向けてくれるのだろうか。

 少し思い切った行動に出てみようかな……。


「ねえ」

「なんだ?」


 彼はなんてことのないように応じる。

 前方に視線を向けたまま。


「私、来年は短期留学とかしてみようかなーって考えてるんだ」

「留学? すごいな! そういや、英語の成績いいもんな。頑張ってきなよ!」

「……うん」


 驚きながらもにこやかな笑みを向ける君。

 でもやっぱり、あの瞳を私には向けてくれない。私が離れることに対して、寂しさよりも応援の気持ちの方が大きいみたい。

 

 ああ……。

 これで君としばらく会えなくなる。


 留学したら私たちの関係性はどうなってしまうんだろう。

 そのあいだに、君はあの子と付き合っているのかな。

 私はこの恋心を忘れられるかな。

 それとも、もっと恋しくなるのかな。


 もしかしたら、会えない期間が続いたことで、君は私にあの瞳を向けてくれるようになるのかな、なんて。

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私が一番近いのに…… 水面あお @axtuoi

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