重い足

からから

重い足

 ……足が重い。

 眠気から意識が浮上しかけているその状況で最初に感じたことがそれだった。左足だけがどうにも重くて普通に動かすことも億劫である。一体何なのだろうか。眠い目を擦りながら上半身の力だけで起き上がって自分の足を確認すれば鎖で繋がれているのが見えた。

 鎖の先を目で追えば柱にぐるぐると巻き付けられていて鍵までかけられているように見える。

 ふむ、なるほど。どうやら自分は監禁されてしまったようだ。

 鎖の長さからしてトイレには届きそうだが家から出ることは叶わないだろう。軽く周りを見渡しても鞄もスマホも見当たらない。とはいえ、自分にこんなことをする人物は一人しか思い浮かばないのだが。


「あっ、は~ちゃん、起きた~?」

「起きたよ。睡眠薬でも盛った?」

「うんっ! 起きなさすぎてちょっと心配になるくらい!」

「ぐっすり眠らせてもらったよ。ありがとう」

「えへへ……。このためにベッドを新しいのに変えたからね」


 自分が眠っていた場所を触れば確かに寝心地の良さそうなベッドだ。柔らかすぎず適度に反発があるのが自分の趣味に合わせられているのを感じる。


「ところでこの足に繋がっている鎖はなにかな?」

「は~ちゃんをこの家から出さないための鎖だよ」

「それはどうしてだい?」

「……だっては~ちゃん、先週男と二人で歩いてたでしょ。僕がいるのに他の男と過ごす必要なんてないじゃん」

「仕事相手だよ」

「それでもダメなの! 僕だけ、僕だけを見てよ。は~ちゃんには僕以外いらないよね!?」

「いらないけど、仕事はしないといけないから」

「僕がする! 僕がは~ちゃんの分も稼ぐからは~ちゃんは一生ここでいてよ! ねえ!!!」


 必死な表情で自分に訴えかけてくる。昔から自分に執着しているとは思っていたけれど、監禁までしてくるとはさすがに予想外だった。予想外だっただけで、ここまで求められると悪い気がしないことも事実であった。


「いいよ。一生ここにいてあげる」

「本当!?」

「今まで嘘吐いたことあったかな?」

「ない!」


 そう笑顔で叫ぶとこちらに向かって飛び込んできた。勢いよく自分と一緒にベッドに倒れ込む。それと同時に包丁の落ちる音がした。どうせ刺すことなんて出来ないのに、自分を脅すためだけに隠していたのかと思うとかわいいなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

重い足 からから @kirinomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る