家政婦 No. META 防犯オプション

ロックホッパー

 

家政婦 No. META 防犯オプション


                          -修.


 「ご主人様、コーヒーでございます。久しぶりに、少しお時間を頂いて有料オプションを提案させていただいてもよろしいでしょうか。」


 確かに久しぶりに家政婦のミータが話題を切り出してきた。我が家ではミータと名付けた汎用人型サポートロボットNo.METAが来てから3ヶ月ほどが経つ。外観はどうみてもロボットで、頭の部分はディスプレイになっており、ヘノヘノモヘジのような線画で表情が示される。我が家は俗にいうパワーカップルで、家事に手が回らないためロボットの家政婦を導入することにしたのだ。


 前回、ミータから提案のあったプランでは妻の夜の趣味が暴かれ、妻と最初は少し揉めたが、逆にお互いの理解は深まったと感じている。このため、俺はミータの提案に大いに興味があった。


 「今回は何の提案?」

 「ご主人様、お時間を頂きありがとうございます。今回のご提案は防犯オプションでございます。最近、外国人とおぼしき窃盗団が暗躍していることはご存知かと思います。場合によっては居直り強盗となる場合もあるようです。」

 「あー、最近ニュースになっているね。」

 「はい。弊社の分析によりますと、この地域で犯行が起こる確率が上がってきています。また、この家のようにある程度お金をお持ちの家が狙われる危険性が高いです。」

 ミータの言う通り、我が家は共働きローンを最大限使った、庭付きの一戸建てで、駐車スペースには妻が通勤に使う高級外車が止まっている。

 「確かに危ないかもしれないな。で、そのオプションってどんなものなんだ。」

 ミータは防犯オプションについて詳細に説明してくれたが、金額もそれほど高くなかったので俺は即座に契約することにした。


 数日後、ミータは1日ドック入りして帰ってきた。ミータの説明では、外装がポリカーボネートからアラミド繊維・セラミック複合装甲になったそうで、関節部分にもプロテクターが追加されていた。若干重量が増したため稼働時間が短くなったが、家事には支障がないそうだ。また、空手・合気道モジュール、対テロ制圧モジュール、火器対応モジュールなどがインストールされたらしい。かなり高額な装備のためか、契約は5年しばりとなっていた。

 そして、リビングにも大人二人が逃げ込めるエスケープボックスが設置された。中からは家の中の様子がモニターできるようになっている。そして、耐衝撃、防弾、防火に加え、地震や洪水の時にも利用できるらしい。なんとも邪魔だが命が保証されるなら我慢すべきだろう。


 そして準備が整って数週間経ったある日の夕方、ドアホンから来客を知らせるチャイムが鳴った。ミータはドアホンを操作して対応しつつ、俺に向かってエスケープボックスに逃げ込むよう合図をした。妻はまだ仕事で会社なので、俺は一人でエスケープボックスに逃げ込み、中から鍵を掛けた。


 ミータはわざとらしく大きな足音を立てて「今、行きますからー・・・」と大きな声で言いつつ玄関へ歩いて行った。そして、玄関を開け、ミータは外に出た。


 モニターは家の中しか写っておらず、外で何が起こっているかは分からなかったが、ミータが外に出た瞬間、爆発音のような大きな音と地響きがした。続いて「タンタンタンタン・・」と断続的は破裂音がした。

 爆弾とマシンガンか?外は戦場になっているのでは無いか?いくらミータが強化されたとは言え、戦場で耐えられるものではないだろう。


 俺の心配をよそに、ミータから日頃の口調で無線通信が入った。

 「ご主人様、鎮圧完了しましたので玄関へお越しください。」

 鎮圧って、やはり戦場みたいになったのだろうか。血まみれの死体とかあっても、あまり見たくないが・・・。俺はエスケープボックスから出て玄関へ向かった。


 玄関では少しを開けた扉から、ミータが手招きした。

 「こちらです。」

 俺が玄関を開けると、死体や血の跡はなく、駐車スペースに外国人らしき5人が頭の後ろに手を組んで座っていた。

 「ミータが一人でやったのか。」

 「いえいえ、応援を呼びましたので・・・。」


 ミータが指さす先には、門扉の外の道路に1体、駐車スペースの奥に1体、身長2mはあろうかと思われる、ガンメタルのボディのロボットが仁王立ちしていた。割と華奢なミータと違い、全体的にごつごつしており、頭の部分もディスプレイではなく、カメラなのか、兵器なのか、いろいろな装備が付いている。これは軍用なのではなかろうかと思われた。


 「いつの間に・・・。」

 ドアホンが鳴ってから、まだ2、3分しか経っていない。窃盗団を待ち伏せしていたのだろうか。ミータが俺の疑問を察したのか説明を始めた。

 「ドアホンの画像が弊社のデータベースに記録された窃盗団の一人に似ておりましたので、すぐに支社に応援を要請いたしました。支社は、2体の警護ロボットを搭載した輸送ドローンをカタパルトで射出しました。輸送ドローンは最終速度マッハ2でこちらに向かい、上空で警護用ロボットを切り離し、警護用ロボットが道路と庭に着陸し、窃盗団に投降を促したという次第です。この2台を見て観念したのか、窃盗団は素直に武装解除し、投降してくれました。」

 確かに、この巨大なロボットを目の前にして戦おうと考える奴は相当の命知らずだろう。重火器でも持っていれば別だが、ナイフや棒ではかすり傷も付きそうにない。


 「何か大きな音がしたが、戦闘になったのではないのか。」

 「はい、私が玄関にいた一人を後ろに突き飛ばしたくらいですね。その際、装甲に少し擦り傷を入れてしまいました。」

 ミータは装甲に傷を付けたことを悔やんでいるように見えた。本業が家政婦なので、日頃、家具や食器に傷を付けないように注意しているからだろうか。


 「音につきましては、爆発音は輸送ドローンのソニックブームで、その後の断続的な音は警護用ロボットの着陸時のパルスジェットエンジンの音です。ご近所さんにはご迷惑をお掛けしましたが、窃盗団を捕まえて地域の安全に貢献しましたので勘弁してもらいましょう。」

 「あー、なんかすごいことになったな。」

 「警察にも通報済ですので、もうすぐ逮捕に来ると思います。今回の応援は単独依頼の場合、数百万円掛かりますが、ご主人様は契約済ですので追加の費用は発生しません。無事窃盗団を捕まられましたので弊社の宣伝にもなります。ご契約ありがとうございました。弊社に成り代わり、お礼申し上げます。」


 ミータの提案は今回も的を射ていた。俺は、何かうまく利用されたような釈然としない感覚も残ったが、今回の件を宣伝に使う代わりに契約代金を値引きしてくれるらしく、まあお互いウィンウィンで良かったのではないかと思うことにした。


おしまい

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