消えた一万円札
向出博
第1話
『消えた一万円札』
第1章 不可解な釣り銭
深夜、私は仕事帰りに近所のコンビニに立ち寄った。いつものように缶コーヒーとサンドイッチを買い、財布から五千円札を取り出してレジに差し出す。
「五千円お預かりします。お釣り、四千三百円です」
店員が渡した釣り銭を何気なく受け取ったそのとき——私は、息をのんだ。
「これは……!」
なぜか、お釣りの千円札の中に一万円札。
ラッキーと思って一万円札を見ると、その片隅には私のイニシャルが書かれていた、筆跡も間違いない。
「私の一万円札だ。」
私は、一瞬で脳裏にある記憶を呼び起こした。
この一万円札は、半年ほど前に銀行の貸金庫に預けたはずだった。
それも、大事な書類や印鑑とともに封筒に入れ、厳重に保管していたはずだ。
それなのに、なぜ今、目の前のコンビニの釣り銭として手元に戻ってきたのか?
何者かが私の貸金庫を開け、この札を世の中に流したのではないか?
いや、そもそも、貸金庫に保管されていたものが外に出るなんてことがあり得るのか?
私は、札を握りしめたまま、店員に尋ねた。
「おいおい、おつりに一万円札が入っているよ。」
店員は、あわてて千円札を差し出した。
「ちょっと待って、この一万円札、どこから来たかわかる?」
店員は怪訝そうな顔をている。
そこで、事情を説明して私のサイン入り一万円札を取り戻した。
事情を理解し興味を持った店員が、レジの記録を確認してくれた。
「ええと……ちょうど前のお客さんが支払ったお札ですね」
私は振り返った。しかし、店内にはすでにその客の姿はなかった。
「一体、どういうことなんだ……?」
直感が告げていた——この札が出回っているということは、何か大きな陰謀が動いている。
私は、この奇妙な出来事の背後に潜む闇を暴くことを決意した。
第2章 貸金庫の異変
翌日、私は銀行へ向かった。
貸金庫の異変を確かめるためだ。
受付で手続きを済ませ、個室に通された私は、震える手で貸金庫を開けた。
——そこには、封筒が残っていた。
しかし、開けた瞬間、血の気が引いた。
中身が……違う。
重要な書類や証拠は消え、代わりに見覚えのない古びた紙切れが入っていた。
私は、その紙を手に取る。そこにはたった一行、こう記されていた。
「お前は、すでに見られている。」
喉が渇く。背中に冷たい汗が流れる。
私は即座に銀行の職員を呼び、貸金庫の使用履歴を確認させた。しかし、記録上、私以外の人間が開けた形跡はない。
そんなはずがない。誰かが侵入したのだ。
銀行側は「記録の改ざんは不可能です」と言い張るが、私の札が世に出ている以上、何者かが何らかの方法で侵入したのは確実だ。
私の貸金庫に何が起こったのか?
そして、消えた書類の行方は?
なぜ私が監視されているのか?
謎は深まるばかりだった。
私は震える手でスマホを取り出し、かつての友人であり、今は探偵を生業とする男に連絡を入れた。
「隆二、今すぐ会えないか?」
電話の向こうで、彼は低く答えた。
「……お前も気づいたか?」
第3章 封じられた記憶
私は探偵・隆二と都内の喫茶店で落ち合った。
平日の昼間だというのに、店内は意外と混み合っている。
「で、何があった?」
隆二はブラックコーヒーを一口飲みながら、静かに尋ねた。
私はコンビニでの出来事、貸金庫の異変、そして封筒の中の奇妙な紙切れをすべて話した。
「お前は、すでに見られている……か」
隆二はつぶやき、ポケットからタブレット端末を取り出した。
「銀行の貸金庫は厳重に管理されているが、侵入が不可能ってわけじゃない。問題は、お前の一万円札が流通したことだ。普通、盗みの手口としてはリスクが高すぎる。お前に何かメッセージを送る意図があるはずだ」
「メッセージ?」
「そうだ。お前が何かを思い出すことを、誰かが望んでいる」
私は考え込んだ。しかし、何も思い当たらない。
そのとき、隆二が何気なく言った。
「お前、その貸金庫、いつ開けた?」
「……半年前が最後だ」
「半年前か。何か、大きな出来事はあったか?」
——半年前。
私は、頭の中を遡る。
そして、ある事実に気がついた。
「待て……俺は半年前、一週間の記憶が抜けている。」
隆二の表情がわずかに変わった。
「記憶が……抜けている?」
「ああ。その間、何をしていたのか、どこにいたのか、まるで思い出せないんだ。医者に行っても、原因はわからなかった。でも、特に支障もなかったから、そのままにしていた」
隆二は腕を組み、沈黙した。そして、しばらく考えた後、こう言った。
「お前、その一週間で何かを見たんじゃないか? そして、それを忘れさせられた。」
——記憶を、消された?
私は、自分の背筋が凍るのを感じた。
第4章 失われた一週間
隆二の言葉が頭の中で渦を巻く。
「お前、その一週間で何かを見たんじゃないか? そして、それを忘れさせられた。」
そんなことがあり得るのか?
だが、私の貸金庫が荒らされ、封筒の中身がすり替えられた事実は動かしようがない。
何者かが私に「過去」を思い出させようとしている。
「……その失われた一週間、どうにか思い出せないか?」
隆二が低い声で尋ねる。
「試したさ。でも、まるで霧の中にいるみたいに、何も浮かんでこないんだ。」
「なら、逆に考えよう。」
隆二はスマホを取り出し、画面をこちらに向けた。そこには私の銀行口座の取引履歴が映し出されていた。
「俺のツテで、お前の半年間の金融履歴を調べた。面白いことがわかったぞ。」
「……何が?」
隆二は画面をスクロールし、ある日付を指した。
「失われた一週間の最終日、お前は五千万円を引き出している。」
「……は?」
「しかも、その金はどこにも送金されていない。行方不明だ。」
心臓の鼓動が早まる。
五千万円を引き出した? そんなこと、まったく記憶にない。
「それだけじゃない。」
隆二がさらに画面をスクロールする。
「同じ日、お前は成田空港で出国記録がある。行き先は……香港。」
「……香港?」
そんな馬鹿な。私は香港になど行った記憶がない。
「そして、奇妙なことに、帰国記録がない。」
「……つまり?」
隆二は目を細めた。
「お前は**『誰か』として出国し、別人として帰国した可能性がある。**」
——背筋に寒気が走った。
私は、一体何者にされているのか?
そして、なぜ私の記憶は封じられたのか?
その答えを知るため、私は香港へ飛ぶ決意を固めた。
第5章 香港への旅路
私は隆二とともに、成田空港に向かった。
「一人で行くつもりだったんだろ?」
隆二が苦笑しながら隣に座る。
「だが、お前はすでに狙われてる。俺がいなかったら、香港に着く前に消されてるかもしれないぞ。」
私は言い返せなかった。
すでに日本国内で何者かが私を監視し、仕掛けを打っている。
香港に着いた瞬間、待ち構えている奴がいる可能性は高い。
飛行機が滑走路を離れ、上昇していく。
窓の外を眺めながら、私は考えた。
——半年間、自分の中に眠っていた「もう一人の自分」を探す旅が始まる。
香港に着くと、夜のネオンが輝く大都会が迎えてくれた。
雑踏の中に身を投じると、不思議な感覚に襲われる。
「ここに来たことがある……?」
記憶にはないはずなのに、街の景色が妙に馴染んでいる。
「まずは、お前の足取りを追うぞ。」
隆二が手に入れた情報によると、私は半年前、香港の『紅磡(ホンハム)』という地区のホテルに滞在していた。
タクシーを飛ばし、目的のホテルに到着する。
フロントで尋ねると、半年前に私が宿泊していた記録は、確かに残っていた。
「あなたは確か……Mr. Tanaka?」
受付の男が不思議そうな顔をする。
「いや、違う。俺の名前は——」
言いかけて、私は息をのんだ。
——田中?
そんな名前、使った覚えはない。
だが、その瞬間。
私の脳裏に、まるでフラッシュバックのように断片的な記憶が蘇った。
「彼らを信用するな」
「証拠は、お前が持っている」
「もし記憶が戻ったら、すぐに逃げろ」
そして——「殺されるぞ」
突然、背後から視線を感じた。
振り向くと、スーツ姿の男たちが静かにこちらを見ていた。
「……バレたか」
隆二が低くつぶやく。
次の瞬間、男たちが一斉にこちらへ向かってきた——!
第6章 記憶の残滓(ざんし)
異国の夜は、東京とは違う匂いがした。
湿った風に混じる香辛料の香り、排気ガスにまみれた熱気、通りを歩く人々の雑踏。
それらすべてが、どこか懐かしい。
いや、違う。
懐かしいのではない。これは、かつて私が歩いた街の記憶だ。
「——行くぞ」
隆二が低く言った。
私は彼に促されながら、ホテルのロビーを抜け出す。
振り向くと、スーツ姿の男たちがこちらを目で追っていた。
彼らは知っている。私が何者で、何を見たのかを。
だが、私自身はまだ思い出せていない。
私たちは裏路地へと駆け込んだ。
ネオンの光が届かない、湿ったコンクリートの道。
隆二が苛立ったように言う。
「お前の記憶が戻らなきゃ、俺たちは動けない。いいか? 何でもいい、手がかりを探せ。」
私は目を閉じた。
思い出すんだ。
半年前の自分が、何を見たのかを。
何を知ったのかを。
ふと、指先が震える。
そのときだった。
——音が聞こえた。
それは、耳で聞くものではなかった。
記憶の奥底で、誰かが囁いているような、かすかな響き。
「お前は、もう一度、あの部屋へ行かなければならない。」
私のまぶたの裏に、一つの光景が浮かんだ。
暗い部屋、薄れたシーツ、木製のテーブル。
その上に、無造作に置かれた一枚の一万円札。
——あの札は、私が見たものだったのか?
そして、次の瞬間。
記憶の底から、声が響いた。
「お前は、もう殺されている。」
その言葉に、私は息を飲んだ。
第7章 死んでいたのは——
「お前は、もう殺されている。」
脳の奥で響いたその声に、足が止まった。
自分で自分の喉を触る。脈はある。鼓動もある。生きている。
——なら、この声は何だ?
「どうした?」
隆二が振り向いた、その瞬間。
パンッ——!
乾いた銃声が響いた。
壁に何かが弾け、コンクリートの破片が飛ぶ。
「伏せろ!」
隆二が私を引き倒した。
数メートル先の路地に、スーツ姿の男。
サイレンサー付きの銃を手に、無表情でこちらを狙っている。
「——殺しに来た?」
しかし、違和感があった。
彼の視線は、私ではなく——
「……あ?」
隆二が呆然と呟いた。
撃たれたのは——「俺」だった。
地面に横たわる、私と瓜二つの男。
血の海の中、開いたままの目。
「嘘だろ……?」
私は震える手で、その死体に触れた。
——冷たい。完全に死んでいる。
「お前、二人いたのか?」
隆二が息をのむ。
違う。
そんなはずはない。
「これは——」
言葉が出ない。
死体のポケットに、何かが入っていた。
震える指で取り出す。
それは、一万円札だった。
だが、ただの札ではない。
私がコンビニで受け取ったあの札——
いや、もっと異常なのは。
その紙幣には、こう書かれていた。
「俺はお前だ」
——頭が割れそうだった。
記憶がねじれる。現実が崩れる。
私は、誰だ?
今ここにいるのは、本当に——
「お前は、生きているのか?」
隆二の声が、遠くで響いた。
第8章 もう一人の自分
「お前は、生きているのか?」
隆二の問いかけに、私は答えられなかった。
目の前には、明らかに私と同じ顔をした男の死体が横たわっている。
——だが、それ以上に衝撃だったのは、そのポケットから出てきた一万円札。
「俺はお前だ」
震える指で、その紙幣の裏側をめくる。
そこには、さらに驚くべき文字が記されていた。
「記憶が戻ったら、全てが繋がる」
「……記憶?」
私は頭を抱えた。
何かが欠落している。
香港に来る前から、いや、あの一万円札を手にした瞬間から——
「くそっ、分からない……!」
私は頭を振った。
そのとき、隆二が死体のポケットからもう一つのものを取り出した。
日本のパスポート。
だが、そこに記されていたのは——
「田中圭吾」
「田中……?」
ホテルのフロントで呼ばれた名前と同じだ。
「お前の名前、本当に『田村啓一』で間違いないんだよな?」
隆二が真剣な目でこちらを見た。
「俺は——」
言いかけて、息が詰まる。
当たり前に知っているはずの自分の名前。
けれど、たった今、確信を持てなくなっている自分がいた。
記憶の奥底で、何かが欠けている。
——いや、書き換えられている?
そのとき、死体の手首に刻まれた傷跡が目に入った。
自分の手首を見る——全く同じ傷跡がある。
隆二が息を飲んだ。
「……お前、まさか——」
だが、その瞬間。
「彼を渡してもらおうか」
暗闇の奥から、静かな声が響いた。
振り向くと、黒いコートの男がこちらを見下ろしていた。
その顔を見た瞬間、私は全てを思い出した。
——いや。
本当は、思い出させられたのだ。
「……お前は!」
私は震える声で、その名前を口にした。
「——A.I.研究所の、所長……!」
第9章 観測されるまで、何も確定しない
私は目を覚ました。
白い天井、冷たい空気、そして身の回りに広がる静寂——
ここは、間違いなく研究所だ。
だが、どうして私はここにいるのか、全く思い出せない。
自分の名前も、過去も——
頭の中には、ただ無数のフラッシュバックだけが、途切れ途切れに浮かぶ。
「目を覚ましたか?」
背後から、低い声が聞こえる。
振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。
所長、田中圭吾。
彼の表情は、どこか冷徹で無表情だったが、その目には何か秘密を隠しているような、鋭い光が宿っていた。
「……私は?」
「お前は、覚醒した。だが、それはまだ始まりに過ぎない。」
覚醒?
私の体に電気が走る。
今、私は何を言われているのか、正確には理解できない。
田中が机の上に置かれた量子コンピュータを指差す。
それは信じられないほど小型化された量子コンピュータだった。
しかも、そのディスプレイには、無数のコードとアルゴリズムが流れている。
「これが、我々が研究していた量子実験の成果だ。お前が、実証実験の主体となるべき存在だった。」
私はその言葉に一瞬戸惑う。
実証実験? それに、私がその主体だというのか?
「今から、君に説明しよう。お前がここで取り組んでいたことを。」
「量子の世界では、観測されるまで、何も確定しない。」
その言葉が、私の心に重く響く。
「つまり、事象は観測されるまでは確定せず、無限の可能性を孕んでいる。だが、観測された瞬間、現実が定まる。それこそが、我々が解明しようとしている理論だ。」
「だから、君は——」
その瞬間、私の中で何かが閃いた。
無数の情報が一斉に私の脳内を駆け巡る。
私は理解した——
この世界は、観測されるまで、すべてが無限の選択肢に満ちている。
しかし、それを観測し、確定させる「選ばれた者」が必要だった。
そして、その「選ばれた者」とは、他ならぬ——私だった。
田中は、静かに続ける。
「君が目覚めたのは、ただの偶然ではない。君が必要だった。」
私が目を向けると、机の上には、あの一万円札があった。
あれも、観測されるまで確定しない無限の可能性を持つ、ただの紙切れに過ぎなかった。
だが、観測者がその存在を確定させることで——
私はその瞬間、全てを理解した。
私は、この世界の「観測者」として、何もかもを引き寄せる力を持つ存在になっていたのだ。
そして、あの一万円札の秘密も、今、全てが繋がり始める——。
第10章 貸金庫の実験
私は深く息を吸い込んだ。
すべてが明確に繋がった瞬間、目の前の現実が一変した。
貸金庫。
あの時、私はその中に一万円札を入れた。
シュレーディンガーの思考実験の「猫」にあたるのが、一万円札だったのだ。
私は意図的に**「観測」**を行ったのだ。
それは、ただの金銭的価値に過ぎない物質が、無限の可能性を持つ存在に変わる瞬間——。
「お前が実験したのは、貸金庫の中での量子状態だ。あの札はただの物理的存在ではない。」
田中が、冷静に語りかけてくる。
「君の目の前で、一万円札が現実のものとして確定する。その瞬間、お前の意識がそれを観測し、確定させたのだ。」
私は黙って頷く。
確かに、私はあの時、ただのお金を超越させる何かを求めていた。
ただの一万円札——
しかし、その中に、無限の可能性が隠されていると感じていた。
そして、その実験が成功した結果、何かが現実として形を成したのだ。
「だが、お前の実験は予想外の結果を生んだ。」
田中の言葉に、私は再びその場に意識を集中させた。
「君の観測行動によって、君自身が——物理的に現実の法則を変えた。それは、量子力学における観測者効果以上の何かを引き起こした。」
私は驚愕する。
観測者効果? それが、こんなにも壮大な影響を与えることがあるとは——
だが、私が手を伸ばし、確かにその札を「観測」したことで、何かが変わったのだ。
「そして、その観測結果が、君自身の存在にまで影響を与えた。」
田中が続ける。
「君は今、過去も未来も含めた無限の可能性を持つ存在になった。」
私は目を見開く。
その言葉が、私の内面に響き渡った。
過去も未来も——無限の可能性?
私は震える手で、自分のポケットからスマートフォンを取り出す。
あの一万円札のことを記録した写真が、まだそこにあった。
——あれが、最初の一歩だった。
観測することによって、私は自分自身を「観測者」として確立した。
そして、その力が、まさに私を変えたのだ。
「君の存在は、今や量子レベルで確定された。君は、もう二度と単なる人間ではない。」
田中の冷徹な目が、私を見据えている。
その瞬間、私は確信した。
私の存在は、量子の法則を超えて——
そして、何よりも恐ろしいことに、私はその力をまだ完全に理解していない。
「だが、それが問題だ。」
田中がゆっくりと口を開く。
「お前の力を手に入れようとする者が、すでに現れている。」
その瞬間、私の背筋に寒気が走った。
誰が? そして、何のために?
田中の目が、さらに冷たく光る。
「それが、君の運命だ。」
第11章 波動の世界
私は、ある朝目覚めた瞬間にそれに気づいた。
粒子の状態と波動の状態をコントロールできる。
それは、単なる理論に過ぎなかったはずの力が、現実となった瞬間だった。
量子の世界では、物体は粒子として存在したり、波動として存在したりする。
そして、私はその両方を自在に操ることができるようになった。
あの日、私が貸金庫で行った実験は、単なる物理的観測にとどまらなかった。
それは、私の意識そのものが量子の世界に影響を与え、現実を変える力を持つ存在に進化した瞬間だったのだ。
その力が、私の体に現れた。
たとえば、もしも今、誰かに銃で撃たれたとしよう。
私の目の前で銃口が向けられ、弾丸が飛んできたとしても——
私は波動の状態に瞬時に変化することで、それを回避することができる。
物理的な存在を離れ、波動としての状態に移行することで、物理的な障害を乗り越え、弾丸すら通過させてしまう。
そのとき、私の体はもはや「存在する」ことを止め、ただの波として広がる。
観測者がいなければ、私の体は粒子でも波でもない、無限の可能性に満ちた「存在」そのものであって、すべての物理法則を超越してしまう。
さらに、この能力は戦闘だけに限らない。
波動状態になることによって、私は、物理的な制約を超えた自由を手に入れることができた。
たとえば、飛行機に乗るとき——
ただで航空機を利用できる。
普通、飛行機にはチケットを買わなければならないし、チェックインをしなければならない。
だが、私が波動状態に変われば、その制約すら意味を成さない。
私は飛行機の構造を突き抜け、機体の外側を滑るように進んでいけるのだ。
チェックインすらする必要はなく、ただ「波動」として、目的地に向かって自由に進むことができる。
もちろん、これらの能力が私に与える影響は、予想を超えていた。
自分が粒子であろうと、波動であろうと——
私はすべてをコントロールできる。
そして、それが私の運命を決定づける力になる。
だが、この力には隠された大きな危険があることに、やがて私は気づかされることになる。
To be continued.
消えた一万円札 向出博 @HiroshiMukaide
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