クロきつ! ~にゃんだかラノベにハマったガチおきつねさまと異世界旅、したらなんでかいつも人助けなあたしのワケ~

第0話 いきなり決戦!

 見上げれば澄み切った空。

 町の喧騒を離れて、静かな森のなかでゆったりのんびり。

 なんて、あたしには似合わない?

 んなこと、ないよね。

 木漏れ日の下で昼寝って、最高じゃん。

 平日昼間から? みたいな。

 ゆうて、今は夏休み。

 女子こーせーが、どこで何しようが勝手でしょって感じだけど。


 ここが平和な日本ならね。


 ドッカァーーーーーン!!


 穏やかなあくびも吹っ飛ばす、鼓膜破れそうな爆音。

 天に届くほどの爆炎舞い、豊かな森を焼き尽くす。

 大袈裟?!

 いやいやぁ。

 マジでそうとしか思えないでしょ?!


「退避! 退避!」


「逃げんなっ、コラッ! 責任取れ!  大の大人が揃いもそろってっ!」


 か弱いあたしの声なんて、ぜんぜん届かないつーのっ!

 なんなん、こいつら?

 ピカピカに磨き上げられた立派な銀の鎧を着込んだ、王様を守るはずの兵士がパニくって仔犬みたいに逃げ惑うって。異常事態は分かるけど、情けねえぇ。逃げる前にやることあるだろ?! でも、隊長の統率も取れない。ああ、いや。むしろ討伐隊の隊長こそが後ろも見ず部下を掻き分けて森から逃げようとしてるってか?


 ガチ情けねえぇ。


 ウオォーーーッ!


 リードを失ったチェイサーウルフが吠えてる。

 綱から解き放たれて喜んでいるようにも見えるけど、どうすればいいのか分からなくてパニくってるってほうがきっと正しい。

 人間がパニくるから、わんこだってキレるんだ。

 でも、鎧着たごつい兵隊までもひと呑みにしそうなバカでかウルフが暴走って、ヤバくね?

 ああもう!

 なにから何まで、もうっ!!


 ないわあ……。

 ムリじゃね?

 一介の女子コーセーに、これ以上何をどうすればいいっつーの!


「なんにゃ、やる気か? おうおう、受けてたってやるにゃ! 決着、つけたる!」


 あの子はあの子でぇ……。

 もう!

 ふさふさ銀の尻尾を膨らませ、ぴんと立てた耳もピクピクと。

 ファイティングポーズとって、シュッシュッと、パンチ、パンチ、ウルフに突きつけてる。

 マジで何するわけ?

 いきり立ってる子をさらに挑発して!


 ヤバみ。


「ナユ!」

「クロ子、やっていいかにゃ? いいにゃ! あいつらぶっ飛ばして!」

「そういう場合じゃないんだけど!」

「そういう場合にゃ! 奴らやる気満々にゃん。どうにかしないと、どうにも出来ないにゃ」


 銀の狐。那由他なゆた

 妖怪なんだか、稲荷の神使なんだか。

 本人どれも認めていないけど、狐のくせに小学生女児の姿で耳と尻尾だけ出して、にゃあにゃあいってる変なやつ。あたしをこの異世界へと飛ばした張本人。


 でも大事な相棒、かな?


「行け、ナユ!」

「にゃははっはははは!」


 面倒になって、何よりあたしは今すぐにでもあの子のもとに駆けつけたくて。

 ゴー、かけたら、ナユはもうそれこそおもちゃに飛びつくわんこみたいに飛んでった。

 チェイサーウルフは虎よりも大きい。ナユなんて、その顔よりもちっちゃいじゃん。鼻先で小突かれただけで吹っ飛びそうなのに。それが3頭もいるのに……。


 狼は集団戦術が得意だ。

 一匹だけで襲い掛かってくるなんて、まずない。

 ウルフは大きな体もうまく連携とって小さなナユを圧倒しようとしてる。

 よくそんな動き出来るなって感じ。森の中でもまるで平地を走っているように、ナユを追い込んでくる。。

 森を抜ける大風に、小さな木の葉がもまれているようにしか見えん!

 ……んだけど。

 ナユは奴らの吠え声よりも大きな笑い声も止めず、スルスルそのあいだを抜けて、「こっちにゃ、こっちにゃ」とか、やたら挑発してるしぃ。

 ガブッ!

 って、やられたらイチコロなのに。

 パク!

 って、かぶられたらもう、ひと呑みでおなかのなかまで直通なんですけど。


「やーい、やーい! うすのろ! 悔しかったら尻尾の先でもかじってみるにゃん!」


 もう、見てるこっちのほうがハラハラするんですけど!

 あ、でも、なんか、狼たちが疲れてきた?

 見るからに首をうなだれて……。


「今にゃ!」


 3匹がまとまったところ、その中心へ潜り込んで……。


「必殺! 獄炎アッパーーーーーーッ!!」


 って、なんじゃ、そりゃあっ!

 青白い炎まとってナユが跳ね上がったら、ウルフは3匹とも吹っ飛んだ。


「ナユちゃん、大勝利!」


 あたし以外の観客なんて、もうどこにもいないつーの。

 まるでボクシングのKO後ヨロシク、投げキスしたり、空中で飛び跳ねていたり。

 ドヤりまくり。

 元気な子だよ、ほんと。

 深刻な状況なのにさ。笑える。


 ウルフはぐったり横たわっているけど。


「殺したわけじゃ、ないよね?」

「手加減してやったにゃ!」


 ナユは自慢げ。つーか、ぷかぷか得意げに浮いて、見たか、どうだ、参ったか! なんて高笑いだよ、まったく。あの子たちも混乱していただけだろうし、殺しちゃったらかわいそうだし。それは良かったけどさ。


「なんなん? さっきの? ごくえん、なんとか?」

「必殺技にゃ!」

「必殺って……」

「クロ子に貸してもらったゲームにあったにゃん? うち、いっぺんかましてやりたかったんにゃ。こっちだったら、うちの力も全開! 無制限! 限定解除にゃ!!」

「子どもか。いちおう、神さまにもなろうってくせに」

「神さまだからこそ! かましてやるのが礼儀だにゃん!」

「あ、そう」


 無敵かよ。

 なんかもう、あきれて乾いた笑いしか出てこない。

 にゃんにゃんいうのもだけど、現代サブカルに影響受けすぎ。

 スマホ渡したこと、やっぱちょっと後悔。


 てか、そんな場合じゃないつーのっ!


 これで終わったわけじゃない。

 邪魔な壁が取り除かれただけ。

 肝心なのは、この先!

 こっからが本番!


「行こう、ナユ、あの子のところへ」

「にゃあぁ。それこそめんどくさいにゃあ」

「もう! なんでよ」

「逃げたほうがいいにゃ、ほれ」

「え……」


 ナユが顔を向けたほうを見ると……。


「なんなん、あれ?」


 天を衝くほどの巨大な炎の魔人が、それこそアニメにでも出てくるようなのが、腕を振り上げ、胸を張って、空を壊そうってくらいに吠えている。

 ヤバない?!

 意味不明いみふ

 あんなのどうすればいいわけぇっ?


「あれは暴発にゃ」


 訳分からん。呆然となってたら、ナユがぽつり。


「ぼうはつ?」

「簡単にいえば、魔力が制御出来なくなって、なんかこう、ぶわっと! 噴き出しているような状態にゃ。栓がぶっ壊れてポンプから直接噴水みたいな?」

「いやいや、ぜんぜん説明になってないし」

「とにかく! やろうと思ってやっていることじゃないってことにゃ!」

「え? え! それってヤバいじゃん?」

「そう、ヤバヤバ。だから逃げるにゃ」

「そういうのはなしよりのなし!」

「ありよりのありありだにゃ!」

「ナユ……」

「いくらクロ子のお願いでもにゃ。手がつけられないにゃ。あんなの止めんのにどんだけパワー必要か……。うち、めんどくさい」


 ん?

 ちょっと待って。


「めんどくさいってことは、止められないわけじゃないってこと? みたいな」

「うーん……」


 ナユは考えた。

 そして、いった。


「クロ子しだい?」

「なんで?」

「うちはクロ子から遠く離れられないにゃ。クロ子の近くなら存分に、さっきみたいに働けるけど。だから、クロ子が来ないと……」

「行く! 行くに決まってる!」

「そこまでしてやることかにゃ? うちはクロ子がいつでも一番大事にゃ。危険な目に遭わせたくないにゃん」

「そんなの関係ない! あたしに助けを求めてた。あの子の手、あの時あたしはつかめなかった。ヤダ。今度こそ……。人を助けようとするのに理由なんていらないじゃん!」


 そう。そうだ。

 そうだった!

 あたしの決意はもう揺るがない。

 口に出したら、もう。


 一瞬、間が出来た。

 ニヤリとナユが笑った。

 どしたん?


「そういうと思ったにゃ」


 あれ?

 もしかして、あたし、ガチ試されてた?

 マ?!


 ま、いいか。


「行こう、あの子を助けに」


 あたし、つい昨日までただの女子コーセーだったんだけどなあ。

 夏休み中の。

 ちらりとナユを見る。

 ヤバ。

 顔中に楽しいって描いてあるしぃ。見えるね、ドッグランに入った途端の犬みたいだよ。狐だけど。

 昨日までの退屈そうなナユとは大違い。

 あたし?

 真逆。つらたん。

 でも、ちょっとワクワクしてる、心のどこかで。

 そんな自分こそ怖い。

 なんっつって。


 なんでこんなことになったのか?

 聞いてくれんの?

 あれはそう、何度もいうけど、つい昨日のことだったんだ……。

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