第34話

 侯爵邸に戻り、自然とニール様を入れた家族会議が始まる。兄も早々に帰宅してきた。


 ライアン殿下共々あの場面をばっちりと見ていたからだ。ライアン殿下にとっても不愉快でしかなかっただろう。


「リア、今日は散々だったな。見ていて肝が冷えた。リアが光属性持ちで良かった」

「ディルクお兄様、私は大丈夫です。彼女とは前世からの因縁がありますもの。この機会が丁度良いと思ったんです」


「公爵はアイラ夫人と上手くいっていない様子だったな。まさかリアが叩かれるとは思っていなかった。護れなくてすまない」


 ニール様がシュンとして謝ってくれる。


「ニール様、気にしていません。アイラが言い逃れ出来ないようにするにはあれが一番良かったのです。もう、あの人は人前には出て来られないはずですし、いい気味です」


「そういえば、リアがアイラ夫人の耳元で言った言葉はなんだったんだ? その一言で夫人は怒り狂ったみたいだけど」


 兄は興味津々で聞いてきます。


「私も気になる。リア、教えて欲しい」


 横からニール様もにこりと微笑み私の頬を撫でる。


「ニール様まで。大層な事は言っていませんよ。アイラの耳元で囁いた言葉は『マリーナ嬢が王妃になるのは無理ですわ。だって資格がない。マリーナ嬢はキール子爵令嬢だもの』と言っただけですから」


 私以外の家族とニール様はコチッと氷のように固まった。


「リア、今なんて言ったのかしら? 上手く聞こえていなかったわ。母にもう一度言ってちょうだい」


「もう、お母様ったら。『マリーナ嬢が王妃になるのは無理ですわ。だって資格がない。マリーナ嬢はキール子爵令嬢だもの』と言ったのです。この国では伯爵位以上でないと余程の事が無い限り王族との婚姻は結べないですから」

「リア、問題はそこじゃないと兄は思うのだが」


 兄の言葉に一同頷いている。


 え? 

 私の考えとみんなの考えが少しずれていた? 


「何故、マリーナ嬢がキール子爵令嬢なのか、というところだと思うよ? 私のリア」


「あぁ、そうですね。私、リディスの頃に見ていたのです。当時、私は教会からの仕事で街によく出ていたのですが、アイラ男爵令嬢とキール子爵子息が仲睦まじくとある建物へ入って行くのを。


 その後、三カ月経った位でしょうか、ローレンツ様が突然真実の愛を見つけたと言われたの、子供もいると。その子供も丁度三ヶ月だったわ。生まれ変わってマリーナ嬢を見た時、キール子爵に似ていたからやっぱりな、と思ったのです。ふふ。本当に托卵されていたのですね」


「それは証拠があるのか?」

「ディルクお兄様、証拠なんてありませんわ。けれど、アイラ夫人は取り乱していましたわね?」


 ニコニコしながらお茶を飲む私を他所に兄達は驚きを隠せないでいた。


「この事はラストール公爵は知っているのかい?」

「いいえ? 知らないと思いますよ。疑ってはいるでしょうけれど。それに当時、私が言ったところで誰も聞いてはくれなかったでしょうし、問題はないんじゃないかな」


「リア、何かあった時にこの話をしても良いかしら?」

「ええ、お母様。確証の無い話ですから構わないです」


 ずっと黙っていたお父様が真剣な顔でゆっくりと口を開いた。


「リア。もし、その話が本当だったら最悪の場合、王家や公爵家の簒奪を謀る者としてアイラ夫人は牢獄行きとなるだろう。


 リディス嬢を自殺に追い込んだ者として再び注目されるのは良いのだが、光魔法を使える人が減った今、民衆を盾に教会がリアを保護しようと動くかも知れない。


 教会のシンボルとして祭り上げる事も考えられる。そうすればリアの結婚は遅れるか、生涯独身で教会に奉仕させられかねない」


 確かに。光属性が毎年生まれていた頃は教会所属の聖女や聖人、少ないながらも個人の治療師、王宮所属の治療師がいた。


 もちろん聖女や聖人となる人は婚姻出来ない。前世の私は、魔力が少なかったために手伝いという形で教会に所属し、治療師の補助を派遣するという名目で働いていたので婚姻する事が出来たのだ。


 祭り上げられては婚約も無効になるかもしれない。

 そう思うと急に不安になってくる。


 ニール様はそんな私を察してくれたのかそっと抱きしめて言葉をくれる。


「大事なリア、今日はもう遅い。明日、朝一番に婚姻届けを出そう。侯爵、我が家はリアと今すぐ婚姻することに反対はないです。披露宴は後日リアの好きなようにさせてあげたい」


 家族は真剣な顔がふわりと笑顔になった。


「リア、それで構わないか?」

「ええ、もちろん」

「是非、ニール君、こちらこそ娘をお願いします」


 お父様はそう言うと、私に一足先に部屋に戻るようにと告げる。


 大人だけで何か大事な話があるらしい。

 私も大人よ! と思いながらも仕方なく部屋の外で待機していたメイジーと部屋に戻った。


 明日には既婚者となる。

 急なことだったけど、じわりと嬉しさが込み上げて止まらない。


「メイジー、どうしよう。緊張して眠れないわ」

「お嬢様、寝ていただかなければ私達が困ります! 今から侯爵家侍女総出でウエディングドレスをお直しするのです。


 勿論ドレスは先祖代々着られている素晴らしいドレス。私も参加したいので是非寝ていただかねば困ります。そうそう、先程早馬にて王宮と公爵家に知らせを出したので心配しなくても大丈夫ですよ」


 王宮では夜通し舞踏会が開かれているので夜中の知らせは問題はないようだ。

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