やりがい

数金都夢(Hugo)Kirara3500

身の上話が長くなりましたが

 私は「セレモニーハウスゆかり」所属都知事認定葬儀士の弦巻つるまき淑菜よしなと申します。葬儀士というのは、衛生保全施術士(エンバーミング関係)及び葬儀管理士(運営関係)の二区分、そして実務経験のない准葬儀士に分かれており、それぞれ研修所での講習と実技または大学でそれらに関する科目の単位を修得の後、一部の都道府県で認定を受けたうえで技能資格の取得となっています。私は三年前に入社した後にこの二区分を同時取得し准葬儀士に、そして二年の実務経験を経て葬儀士になりました。


 本日は弊社の先輩の松原が五年前に指名されて処置をさせていただいた定益じょうます直美様の娘、彩良さら様の様子をおうかがいしました。あのときのままのおしゃれな部屋の片隅にキャビネットのような戸棚を置かせていただいて、その中で彩良様はずっとお休みになっています。私またはほかの施術者が定期的に彼女の状態を見に来ていますが、今日見たところでは、お変わりなく寝息を立てているような感じでゆっくりお眠りなさっているようでほっとしました。十年ほど前に新たな同業組合を立ち上げて古い体質で我々を縛り付けていたそれまでの組合とたもとを分かつまでこんな事はできなかったのです。かつては下請けとみなされて接触することもできなかった遺族様はもとより時には生前の打ち合わせで私に指名が来て施術をさせていただけるのも今の組合でこそです。


 身の上話が長くなりましたが、妹の有咲ありさ様がいらっしゃいました。

「お姉ちゃんの様子は大丈夫なのでしょうか」

「もちろん。弊社の松原の技術は一級品で私にとっての目標でもありあこがれの先輩だから」

「私、お姉ちゃんともう会えない日常なんてさびしすぎて考えられなかったから。ママと一緒に「ゆかり」に頼んで本当に良かった」

有咲様は目に涙を浮かべながら言われました。彼女は私が処置させていただいたお客様ではありませんが、そう言ってもらうたびにやりがいを感じています。

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