第34話
翌朝、起きたら彼がいて、ほっとした。
「昨日、ごめんね」
謝ると、彼はきょとんとした。
「私、ひどいこと言ったから……」
「なんだっけ」
「一緒に生きていきたかったって……傷付いたよね」
「ああ、それ! 気にしても仕方ないし、いいよ」
カズはにっこり笑った。
私の胸がずきっと痛んだ。
今でもやっぱり彼は優しい。
「昨日さ、ATMを操作して俺の口座から君の口座にお金を入れようかと思ったけど、犯罪と間違われる可能性があるからやめた」
彼は残念そうにそう言った。
「だから、面倒でも死後認知の手続きしてね?」
「わかった。お金よりも、ちゃんとお父さんがいるんだって、わかってもらいたいから」
「この子にも俺が見えたら良いなあ」
彼はそっと私のお腹に手を伸ばす。
やっぱりつきぬけてしまうし、彼の手が私の中に入った感触なんて一切なかった。
トーストと牛乳で朝食を終えたとき、スマホが鳴った。
知らない番号だった。
もしかして。
私はどきどきとスマホに手を伸ばす。
通話ボタンを押すと、年配の男性の声が聞こえた。
「私、弁護士の
来た。
私は思わずカズを見た。
カズは真剣な顔で私を見返した。
窓の外には暗い雲がどんよりと空を覆っていた。
北谷さんに話があると言われ、都合の良い日を聞かれた。
今日にでも、と伝えると、彼は了承した。
そちらまで出向きますと言われたので、近くの喫茶店を指定した。
午後、重く垂れこめた雲の下、カズと一緒に家を出た。
約束の時間に喫茶店に行くと、弁護士はもう到着していた。
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