私達のハルイロ

@Yuuuuzan

第1話

桜が咲き始めた暖かな季節。空はやさしい青色だった。入学式で初めて会ったのにすぐ意気投合した友達と、今日は遊園地に来た。


「ねえ、次は観覧車に乗ろうよ!」

『お、いいね〜。やっぱ遊園地といえば観覧車だよね』


私が提案すると、唯季ゆきはそれにノッてくれた。このノリの良さが、結構好きだ。


『でも甘奈かんな、高いとこ大丈夫?怖くない?』


唯季はいたずらっぽく、そう聞いてくる。


「だぁいじょぶだよ!絶叫マシンだって余裕だったし!」

『え、めっちゃ叫んでたじゃん笑』

「そんなことないし......多分」

『多分かい』


観覧車のチケットを買って、列に並んで、いざ観覧車。二人っきりの個室っぽい場所で、いろんな事が話せそう。何話そうかななんて、心を踊らせた。なのに。


_


観覧車に乗って少ししたら、唯季の雰囲気が変わった。なんというか、いつもの話しやすい人って感じじゃなくて、話すのが疲れたみたいな、話したくないみたいな。でも確信はない。自分が原因だったらと思うと、怖い。重い空気が私の喉を埋め、出かかった声をせき止めた。


唯季は今まで私としか行動してないし、チケット買うとき以外人と話してもいない。やっぱり私のせいじゃないか?いや、何か変なことはしてないし、言ってもないはず。髪型?私服?変だったのかな。一緒に歩いていて嫌だったかな。センスおかしいと思われたかな。


いや......お出かけ前にやらかしたパターンかもしれない。メッセージがおかしくてずっとモヤらせてた?本当は私なんかとこういうところに来たくなかった?もっとセンスが良くて、もっと可愛くて、もっと真面目な私だったらこうならなかったかな。


絶え間なく悪い想像が頭を駆け巡る。実際には本当かどうか分かりもしないのに、一度疑い出すと止まらない。嫌だ、嫌だと心のなかで叫び続ける。


_


なんやかんやそんなことを考えていた間に、観覧車の終わりが近づいてくる。頂上の景色なんて覚えていない。それどころでは無かった。観覧車に乗ってからずっと、祈るように両手を組んでそれをじっと見つめていた。目を離せば、一瞬で今の状況がもっと悪くなる気がした。


『きれい』


唯季が突然そう言った。言葉につられて見てみる。他のアトラクションやお客さんたちが、手の内に収まりそうな程小さく見える。その景色に、思わず優越感を覚える。


『実はさ、私話すのがあまり得意じゃないんだ。』


初めて知った。でも。


「......実は、私も。」


笑ってそう告白してみたら、緊張が和らいだのか唯季は笑ってくれた。






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