第2話 強者と弱者

[臭い、肉。嫌な感じ]


頭に響くノイズに苦笑いと失笑を浮かべる器用な真似をして、紅坂龍也。

こちらの世界では[ミル:クスラ:ホワイト]の名前の少年は力もない弱者側の人間だった。

毎日、毎日飽きもせずに懸命にゴミ処理に勤しむ平凡で優しいだけが取り柄の普通の少年。

その少年に、何故か日本で生活していた俺の意識は存在した。


「周りのやつ、殺した」


そして頭に苛立ち気に声を響かせ、悠々と飛び戻ってきたゴミ処理場に眠っていた全身真っ黒な機械の生き物。

全長は2メートルくらいの四つ足歩行の狼の姿をした異形の存在。

クロードフォスガルオルン。

名前が長いのでクロと呼ぶことにしたそれは人類の敵側の存在だった"筈"だった。

「ありがとう、クロ」

「人、食べたの、臭い肉!」

犬の耳の部分をピクピクさせ、全身の鋼殻をパージしたクロは、甘えるように服を顔でスリスリしてくる。

おびただしい血溜まり、機械生命体の死体、倒壊した建物。

見るも無残な光景じゃなければ犬と人間が戯れてる風にギリギリ見えるか?いや、サイズ的には親ヒグマの巨大な生き物が人間の臭いを嗅いでいる光景だろうか。

「えー、そうだな。ミルの記憶ん中じゃ食用の肉はあるらしい」

「ほ、ほんと!? もっと働いたら肉、ちょうだい!!」

一昔流行った人の反応に合わせて動く犬の玩具を巨大にしたらこんな感じなのかと思けど、けして見た目は可愛くない。

のだが、言動と行動が幼い子供と居る感覚になる。

理性よりも欲求を優先する感じがさらに。

「大豆を焼いた代用食みたいだから、肉と言うかは微妙だけどな。まぁ黙ってよう」

小走りに先陣を歩くクロの後ろで聞こえないように呟いて、ため息を吐く。


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