後半 純然たる漆黒の断罪者《エクソシスト》 

 辺境の村は信仰が深い場所だった。

 それは点在する家の屋根に飾られた十字架を見ればわかるだろう。

 その十は軽く超える十字の金属達は、完全に錆切っていた……


 エクソシストが戦う相手。

 吸血鬼や悪魔といった存在に十字架や信仰心は有効だというのにだ。



「さて……を駆除するか」



 エクソシストが向かう先は、この村で一番大きい十字架を掲げる教会。

 三角屋根の頂点に置かれたソレは、背後に備えられた巨大な鐘と相まってより神聖な場所だと告げている。


 今はネズミの巣と化しているが。


 エクソシストが天にまで届きそうな扉を開けてみれば、扉の先に広がるのは沈黙した間。

 神様に祈る為に用意された多くの長椅子には、見るも無惨な死体達が転がっている。


 暗黒に閉ざされた地獄とも言えるべき室内に、赤い光が差す。それが暗闇の中の道となり……祭壇へと届く。


 グシャリ、グシャリ。

 咀嚼音を出すを見てロードが歪に笑う。


「……ほう、天使が教会を汚すとは」


 暗闇が赤い光に消され姿を現すのは片翼の化け物と、祭壇に乗せられた食料少女

 楽しい食事を邪魔されたと、不機嫌さを隠さずに振り返った片翼……堕天使の瞳は黄金だった。


 黄金。間違いなく人の敵である。

 その化け物が、血でドロドロに塗られた口を開く。


「人が楽しく食事をしている時に、邪魔をするとは……下民は教育がなっていないな」

「フッ……人ならともかく。の食事に気を使う必要はないだろう?」

「────この力を見ても。その腐った減らず口を叩けるのかね?」


 瞬間。

 教会を赤色が支配した。

 外を照らす赤い光よりも血生臭く、外の地獄よりも死を感じる濃密な世界が、一人の男に襲い掛かる。


「不愉快だ、君は死体になりたまえ」


 蔑みが混じった声と共に放たれたのは真横一直線の斬撃。真っ赤な光を持つ斬撃はエクソシストと同等の太さを持ちながら、音速で命を刈り取らんと放たれる。


 が、弾かれた。

 斬撃はエクソシストの頭上へズレ、そのまま入り口側の壁を貫通する。


「……なに?」


 破壊が教会を振動させる中、堕天使はその光景を信じる事ができない。何せ先程の技は彼にとって最大の技だったからだ。

 ソレが容易く、虫でも潰す軽さで弾かれた。


「ありえん、あの斬撃を……?」

「戯れはアレで終わりか。ならばこちらから行かせてもらうぞ。何、時間はかけんよ。虫如きに勿体無いからな」


 エクソシストが歩く。

 同時に、斬撃できた壁に描かれたから空が覗いてくる。赤を浄化せんと太陽の光が降り注ぐ空が。


「断罪の時間だ」


 赤から白に変わった光の"道"をロードが通る。まるで神の使徒でも言わんばかりに逆光を浴びた男は口ずさんだ。詠唱を。


『世界から混沌は浄化され、今この場を自然のあるべき世界へと還す──』

「貴様、愚弄するかっ!」


 歩くロードに怒りの突撃を放つ堕天使。しかし

 教会内を彩った赤は浄化され、残るは光の十字架が描かれた床とその真上に立つ二人。

 一人は入り口から伸びる光の道をゆっくりと進み、一人は床の十字架の中心に跪いて。


『人とは愚かであり素晴らしくあり、劣悪で醜悪で、純白で賢く、故に無限の可能性を秘めるモノ──』


 埃が光の粒子となる中、教会に備えられた鐘が一人でに動き始めた。

 ゴーン、ゴーンと重い音が響く。


『──だからこそ私はとして、過ちを粛清し僅かに世界を照らす』

「ッ、きさ──」


 堕天使の一歩前に立つロード。

 彼は堕天使の顔を掴んで──


『アーメン』


 堕天使を塵へと変えた。

 赤い空も消え、空から降る純然たる白き光が降り注ぐ。せめて、消えていった住民が安息できる事を願うかのように。








「どうしたロード。貴様から電話とは珍しい……まさか傷か?」

「いえ、村の生存者について相談が」


 堕天使を消した直後。

 ロードは祭壇の前で電話をしていた。

 珍しい、しかしそうせざる負えない状況だった。


 祭壇で微かに生きる少女食料

 その瞳の色は……黄金だった。

 







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