チーム対抗リレー 二話目 改善後

 


 その日の夜。


 

 は月光に照らされていた。

 豪邸の庭にある桜の花びらによって暗色しかない庭を仄かに飾り、桜の隣にある小川が心地よい音を立てる。


 庭の光景は日本時代劇そのもの。


 だが今夜に限り。

 景観を壊す不純物が紛れ込む。


 外壁の上に立つ侵入者。

 雲から抜き出た月光で姿を現すのは……



 鋼鉄の鎧バトルスーツだった。



 深緑で統一された胴体に、亀の甲羅に似た背中アーマー。鱗の様に荒々しい鎧の表面が己を強者だと叫んでいるよう。

 

 とまあ古き良き日本庭園には合わない要素ばかりだが、その印象を"頭"が一変させる。


 クチバシと頭に乗った"皿"。


 日本のとある妖怪を思い浮かべるだろう。


 それが


 Kinetic Amphibious 水陸両用

 Powered Pro強化tection Armor装甲



 通称──KAPPA河童



 そして中にいるのは──


(正太郎先輩正太郎先輩……!!!!!)


 影沼かげぬま 黒香くろか

 鼻息が荒い彼女が不法侵入したのだ。


 なぜこんなことをしたのか。

 それは第2ボタンのせいである(?)。


 具体的に言うと。


 どこかコミュ障で依存気味な彼女が卒業式後という完璧な舞台で「第2ボタンを貰う貴女が好きです」告白を受けたからだ。

 

 おかげで彼女は暴走してしまった。

 暴走した妄想を膨らませた結果。

 なぜかするトチ狂った思考になってしまったのだ。


 だが致し方ない。

 実質ボッチで人との距離感が分からない彼女へ突然、次元爆発告白が起こったのだ。


 こうもなろう(ならない)。


(猫型警備ロボットにセンサー多数……厄介だけど、私の敵じゃない)


 そうして黒香くろかは忍者のように、幾多のトラップを華麗に避けて屋敷まで辿り着く。


(フフフ後は入り口を──)




──いらっしゃいませ、




 突如、黒香くろかに襲いかかる悪寒。


 後ろに跳んだ彼女の目の前で、槍が地面を突き刺す。重い音と共に地面を砕くその一撃は、まさしく命を刈り取る目的のもの。


「予兆が来たその日にお客様侵入者がいらっしゃるなんて……まさにシンクロニシティ意味のある偶然の一致ですね」

(上!?)


 黒香くろかの頭上から掛けられた和やかな殺気ある声。

 戦闘スーツの最新型センサーすら掻い潜る猛者を黒香くろかが睨む。


 彼女の視線の先は瓦で作られた屋根の上。

 そこに人型のお世話ロボットがいた。

 

 だが人型と表すには……少し歪だった。


? 戦闘ロボットはいないはず)


 黒香くろかは自身の調べ(不正アクセス)で、松山邸に住むのは松山本人とお世話ロボットだけだと知っている。

 だが四つ腕がそのお世話ロボット『セワコ』だと彼女は想像できなかった。


「あらお客様、どうなされましたか?」


 疑問の一瞬。


 セワコの四つ腕の一つが無音でクロスボウに豹変し、黒香くろかを狙撃。

 その動作は僅か一秒。


 迫る矢を黒香くろかは回避した。

 。弾いて音が出るなんてもってのほか。


 そもそも黒香くろかは思う。


(相手は見た所"旧式"! お父様から頂いたこっち最新式だってついてるのよ!)


 旧式と最新式では当然、性能が違う。

 弓矢を避けて五メートル後ろへ跳んでも、一切音を出さない隠密性をKAPPA河童は持っているのだ。

 

(アンタは良い顔パーツ使ってるけど体はロボットそのもの。が主流になった時代に乗り遅れてる)


 まさに時代遅れロートル

 そもそも最新式のKAPPA河童に勝てる存在は、現代を含めても殆どいないのだ。


(もしいたとしても)


 敢えて勝てる存在を挙げるなら。

 ロボットが誕生した半世紀以上前の戦争の都市伝説。

 最初期の人型戦闘兵器『ダークネス闇に堕ちた螺旋』ぐらいだろう。


(……所詮昔話よ)


 よって黒香くろかは現代戦を選択した。


 夜這いする勇気があるなら告れるという正常な判断はできなかったようだが、見事な観察眼である。


「……なるほど」


 屋根からゆらりと降りたセワコが回収した槍で構えた。


「お客様はダンスをご所望されるのですね?」


 黒香くろかとの間に小川を挟んだセワコの顔が、妖美に笑う。


(……こいつブッコロス)


 訪れるは沈黙。

 互いに互いの動きを観察し、付けいる隙がないか伺うが決定的なタイミングは見つからず。


 ふと桜の花びらが二人の間に入る。

 ゆらりゆらりと心臓の鼓動より遅いそれが降りていき……川に触れた。


 瞬間、二人が目にも止まらぬ速さフルスロットルで庭を駆け巡る。数秒間に起こる数十のやり取り攻防、だが庭の美である静けさは損なわれない。

 互いに防御を捨てて、互いの必殺を回避に徹しているが故の静寂。まさに職人技。


(このクソ強旧式、先輩にバレたらどうすんのよ!?)

(わたくしの四つ腕自己改造がバレたら、法律的に解体待ったナシ。誰にも気付かれずにしなければ)


 内心はともかく。

 槍捌きを一ミリ単位で避ける黒香くろかと、槍使いに不利な格闘戦に持ち込まれながら悠々と避けるセワコには美しさすら覚えるだろう。

 

 けれど均衡は最初だけ。

 屋根で一閃交えた時、鉄の切れる音がした。


「──見えました」

(動きが成長して──!?)

 

 相手の動きを見切った演算したセワコの一撃だ。

 黒香くろかの体までは届いていない。しかし業を背負った槍は、最新の鎧を見事に斬った。


 露わになるKAPPA河童の中身。

 黒香くろかは絶対絶命のピンチだが。


「その命を頂き──」


 セワコは手を止めてしまう。


「──正太郎様と同じ制服?」


 戸惑うセワコ。

 逃げる絶好のチャンスだが。


(制服を見て動揺した? 最新ロボットより感情的……ハッ!)


 黒香くろかは閃いてしまった。


(ここはいっその事、感情で訴えるべきでは……!?)



 致命的失敗ファンブル



 違法のオンパレードをしておきながらなぜ許されると思ったのか。


「こ、こんな事をしてすみません……」


 だが黒香くろかは話す。

 でも仕方ない。

 彼女はコミュ症で人との距離感が分からないのだ。

 そもそも正常なら夜這いしない。


「……ですがこれには深い訳があるんです」


 いかにも深刻アピールしながら話し出す。


(よし行くのよ黒香くろか! ここは愛を伝えて説得するのよ!)


 そう勢い良く口を開いて 










「長距離走の自主練の時の筋肉とかすごい男らしくて! だけど背伸びしてる姿が可愛いし、でも部活とか真面目で私にも優しく教える所が好きになってそれで思い出のメモリー夜 這 いしようとっ……ハッ!?」


 建前と本音が逆転した。

 シカタナイヨネ。学校じゃあまり人と話してなかったもんね。


(何やってるのワタシィィィイイ!!???)


 完全にストーカーだ。

 何を言ってもセワコから逃げられない。いやむしろ激昂してより勝てなくなるはず──


「……正太郎様の筋nヴッ!?」

(なんで鼻からオイル出てるの?????)


 これには流石の黒香くろかも冷静になる。なんでダメージを受けているのか黒香くろかにはサッパリ分からなかった。

 

(でもこれはチャンスよ!)


 KAPPA河童は正面を斬られただけ。背中のバーニアは全力で出せる!


(なら掴んで見せる。私の希望夜這いをぉー!!)


 最新バトルスーツが誇る性能の暴挙。

 これによってKAPPA河童は音速を実現。


 まさしく愛!



 だが。



「──成程。貴女はと同じ変t……ではなく正太郎様を溺愛しているのですね」


 KAPPA河童が突撃するよりも先に、セワコの両腕から二本の刀が現れた。


 そこに先程までの動揺はない。

 セワコの目は"見所のある敵"を真正面から捉えている。


「愛し方は違えど確かに貴女の愛は本物です」


 そして二本の刀をクワガタのように構え


 技術と執念が生み出した音速黒香の愛を──


「──ですがその上で言いましょう

 の方が愛していると」



──神速セワコの愛を持って凌駕した。



 螺旋を描きやがて繋がった二つの剣筋は、バトルスーツの一箇所を切り取った。

 すれ違う二人。

 

 先に倒れたのは黒香くろかの方だった。

 





 

 

 

 

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