二股最低彼氏の異世界転生物語(二人の彼女付き)

タヌキング

第1話 クズは死んでも治らない

 この物語を何から話せばいいのかといえば、やはり電車での修羅場からだろう。


『ねぇ、どういうこと?』


 二人の女が電車の長椅子に僕を挟んで腰掛け、両サイドから全く同じことを言った。それはただの恐怖でしかない。

 僕の名前は愛杉あいすぎ 九頭男くずお。ただの男子高校生である。特別に突出したものもない、本当にただの高校生である。ただ一つだけ珍しい特徴といえば、一年前から二人の女性と二股していたことぐらいだろうか?

 二股なんて器用なこと、僕にはとても出来ないと思っていたが意外とやればできるもので、二人の女性との楽しいスクールライフを謳歌していたのだが、彼女である少女Bと電車で帰っている時、部活で居るはずの無い少女Aとバッタリと遭遇。今までの苦労は水の泡になり、一気に修羅場となった。

 どうしてここに居るんだ?と少女Aに聞くと、空手部内でインフルが流行ってしまい、今日のところは練習が休みになってしまったらしい。滝行とかしてる部活のクセに、たかがインフルエンザで休みにするとか弛んでるんじゃないか?と僕の怒りの矛先が空手部に向かったの言うまでもない。


『ねぇ、どいうこと?』


 二回目のユニゾン。彼女達の怒りの矛先は間違いなく僕だろう。

 だが僕が何か悪いことをしたのだろうか?二人の女性を好きになった。ただそれだけじゃないか?何を咎められる必要があるのだろう?愛の形が皆それぞれ違う様に、愛の多さもまたそれぞれ違うのである。不倫は文化と言った芸能人も居たよな。というわけで僕は悪いことをした覚えはない。しかしながら、そんなことを言ってしまえば、この二人が何をやるか分かったものじゃない。ここは下手に出るのが賢明だろう。


「いや、落ち着いてくれ。これは何かの間違いなんだ」


「へぇ、何の間違いなんだ」


「そうですね、聞いてみたいです」


 流石にユニゾンじゃなくなったものの、二人共氷の様な冷たい声である。あんなにベッドでは熱く激しく愛し合ったというのに、こんなギャップには全然萌えやしない。


「い、いやその……」


 何を言っても事態は好転しない。それが分かっているから何も言えなくなってしまった。どうして僕がこんな目に遭わないといけないのだろう?もう家に帰ってママの作ったハンバーグが食べたいよ。

 そう考えた矢先、別の最悪の展開が待ち受けていた。


“ガァァァアアアアアアアアン‼”


 凄い轟音と揺れと共に電車が横転。そのまま何が起こった変らないまま僕の意識はブラックアウトした。



 次に目を覚ますと、僕は草木の上で倒れていた。目を開けてゆっくりと上体を起こすと、今自分の居るところは木々の生い茂る森であり、勘の良い僕はすぐにピンときた。

 

「これは異世界転生したんだ」


 僕は電車の事故で死に、異世界転生して別世界の森に辿り着いた。何の確証も無いが僕はそう思う。決してラノベの読み過ぎではない。


「あはは、やったー。あのこれであの二人から問詰められることも無いぞ」 


 転生して一番良かったことがそれである。とにかく精神的苦痛が半端じゃ無かった。これからどうするか?なんてゆっくり考えれば良い。異世界の女性と恋愛するのも悪く無いだろう。ママのハンバーグは食べたかったが、まぁ、あんなババァの作ったハンバーグよりも異世界飯の方が美味しいに決まっている。

 解放感に酔いしれ、少しばかり興奮してしまったので自慰行為でもしようかと思ったら。ガサゴソと二か所の茂みから草木が揺れる音がした。

 僕は鳥肌が立つぐらい嫌な予感がした。そこから早く逃げるべきだったと今となっては思うのである。

 二か所の茂みから少女Aと少女Bがそれぞれ出てきた時は、僕の心臓が飛び出しそうになった。

 そう、僕と一緒に彼女達も異世界転生したのである。これは神の悪戯にしても質が悪い。僕が何か悪いことをしたというのだろうか?したことといえば二股ぐらいなものである。

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