第3話
「みんな、練習前にゴメンネ。ちょっと集まってもらえる?」
水曜日。部活開始前に集合がかかる。どうやらキャプテンより話があるようだ。
「本番直前に申し訳ないんだけど、ダンスの内容を少し変えてもいいかな? いままでは、最後のバスケットトスをいかに高く、ド派手に決めるかを意識した内容だったけど、途中のタンブリングの時間を長くすべきだと思うんだ。というのも、今年のメンバーはこれまでいた、どんな先輩たちよりも結束力が高いって自信がある。だから、バスケットトスの高さを抑えて、息ピッタリな美しさを表現できる個人技のコンビネーションを目立たせたほうがいいと思うんだけど…、どうかな?」
「夜空がそう思うならそうなんじゃない? どんな案であれ、ウチらは夜空についていくよ」
「私たちも同じ考えです。先輩たちが最高の思い出を作れるよう、あと数日全力で練習します!」
「みんな…、ありがとう!」
あと4日、されど4日。自分らしさを取り戻した夜空を筆頭に、新生ダンス部の練習が始まる!
***
「とうとう本番だね。やれることは全部やった。あとは全力を尽くすだけだよ!」
来たる花火大会本番、夜空たちの出番が刻一刻と迫る。それはすなわち、花火の時間も近づいてくるということだ。観客も続々と増えている。
「まさか、こんなに混むとは。夜空の出番はまだだよな…。まぁ何とか間に合ってよかったぜ」
幼馴染を含め、大勢の観客が見守る中、夜空たちのステージが始まる!
「皆さんはじめまして! このチームのキャプテン、文月夜空です。本番ギリギリまで試行錯誤しましたが、皆さんに楽しんでもらえる出来に仕上がっていると思います! 今日は花火だけでなく、私たちのことも記憶に残して帰ってください!」
キャプテンの挨拶を皮切りに、ステージ発表が始まる。最初は、柔軟性を生かしたダンスで場を盛り上げる。
「5、6、7、8! Go Fight Win!」
顔の高さまであがるハイキックをしているにも関わらず、誰一人動きがずれることはない。その完成度は、開始時には意識を向けていなかった観客たちの注意を引き付けるには十分だった。
「すげぇな。足ってあそこまで上がるんだ!」
「これ見た後だと花火がしょぼく感じるかもなぁ」
高まってきた会場のボルテージに後押しされるように、夜空こだわりのタンブリングへと演技が移っていく。
側転やロンダート、動きが激しい演目だが誰一人動きは乱れない。明確な派手さは無いものの、その統率は目を見張るものだ。そしてその流れをバスケットトスまで繋げていく。
「うぉー! すげぇ!!」
「個人技からのつながりが完璧だったな!」
ド派手な演技はないものの、結束力を活かしたコンビネーションを前面に押し出したステージ。圧倒的な完成度を前に、観客たちは大声で歓声を上げる。大成功という言葉がぴったりだろう。
「みなさん、ありがとうございました!花火のほうも楽しんでくださいね」
***
「みんなお疲れ様。完璧だったよ! ここまで私についてきてくれてありがとう!」
ステージ後のミーティング。夜空から部員に向けて感謝の言葉が向けられるが、部員たちの意識は別のところに向いていた。
「ねぇ皆さん聞いてくださーい。本番中に夜空が観客席の右奥ばっかり見てたので、怪しいなぁと思って視線の先を追ってみたらA組の星川響夜くんがいましたー。このことについてどう思いますかー?」
「ちょ、ちょっと七海。何言ってんのよ!?」
「七海先輩聞いてくださーい。この前、練習が終わった後に、星川先輩からキャプテンの様子について聞かれました。絶対クロですよ!」
「蛍ちゃんまで!?」
「まぁまぁ夜空さん。隠し事があるならゲロっちまいな。もしかして付き合ってたりするんですかい?」
「そんなんじゃないよ…。ただ、見に来てくれてるかなとか、このあとどこに連れて行ってくれるんだろうとか思ってただけだよ…」
「皆さん聞きましたか! 私たちは女だけで寂しい花火大会を満喫する予定だったのに!」
「も、もう七海ったら」
「ゴメンネ、ちょっとからかいすぎちゃったかな。星川くんが待ってるんでしょ。早く行ってあげなさいな。私たちは陰ながら応援してるからさ。」
聴覚的にも物理的にも背中を押される夜空。応援してくれるチームメイトを背に、観客席で待つ響夜のもとへ駆けていった。
***
花火の時間が近づいたこともあり、観客席の人々は花火が見える場所へと移っていく。人々が掃けていく中、響夜を見つけるのは難しいことではない。
「響ちゃん、どうだったかな?」
「最高の出来だったな。文句なしの100点だったぞ。素人の評価だけどな」
照れながらも感想を話す響夜。その言葉に嘘偽りはない。
「じゃあさ、私に最高の景色見せてくれるんでしょ。楽しみにしてたんだから!」
「そうだな、約束したしな。ちゃんと準備はしているから俺についてこい」
そう言った響夜は夜空の手を取り歩き出す。とある場所へと向かって。
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