祓之捌-Ⅲ

 邪気と瘴気の風を織り交ぜた風神坊の猛攻を、かわし続ける翠。

 邪気が地面を穿ち、瘴気の風が草木の生気を吸い尽くす。


 「避けてばかりでは勝てんぞっ!」


 風神坊が右手に、ひときわ大きな、邪気と瘴気の塊を作る。

 全てを破壊する力と、全ての命の力を吸い取る力。

 それは邪悪な意思の象徴そのもの。まさに魔界の力である。


 「今度は避けられんぞっ!!」


 邪気と瘴気の大きな塊を、まるでバスケットボールでも投げるように、軽々と投げ付ける。

 風神坊の力は、周囲の土や草木を巻き込んで、どんどん大きくなっていく。

 巻き込まれた物は邪気に瘴気に、生気を吸われ、邪気に粉々に砕かれていく。

 自分の体以上の大きさを持つその塊は更に大きく成長していく。

 翠は避けるのをやめ、正宗を体の前で垂直に立てて構えた。

 そして正宗の峰に右手を添える。


  ―時の彼方に眠りし龍牙よ

   邪悪な力を払う奔流となれ―


 右手と正宗の間に小さな緑色の光が生じ、正宗の刃先に向かって伸びていく。

 光が刃先まで届くと、刃はその形を失い、緑色に眩く輝く光の剣となった。

 光の刃はまるで炎の如く揺らめき、雄々しく猛っているようだ。

 翠は光の剣となった正宗を下段に構えた。


 「何だ、あの技は? 支龍力しりゅうりょくを使っているようだが、見たことないな。」


 蒼が翠の技を見て首を捻る。

 同じ支龍力を使う術者として、神から魔まで、禁忌と呼ばれる術以外は全て教わった。

 その中で自分が使える術を見つけて職業が決まる。

 退魔師になりたかった蒼だが、攻撃系の術は自分にしっくり来なかった。

 自由自在に操れたのは結界系の術が殆どだった為、結界師となった。

 それ故、蒼は他の術者よりも多くの術を知っている。

 だが、光の珠に映し出されている術は、見たことも聞いたことも無かった。


 「あれは翠が得意とするオリジナル技よ。」


 何度も翠と組んで仕事をしている紫は、何度か目にしたことがあった。


 「結構、力を消費するから、あまり使わないって、言ってたわ。」


 蒼は驚いた。

 まさか、翠が術を開発していようとは思いもしていなかったのである。


 「藍子姉の影響よ。あの子は、妙子さんが修練でいなかった間、藍子姉がぴったりくっついて世話していたから、何度か術開発の現場にも立ち会ったみたいよ。」


 光の珠の中では翠が更に体勢を低く構えるのが映し出されている。

 翠は眼前に迫る邪悪な力に向けて正宗を振り上げる。


  ―牙神龍将がしんりゅうしょう 光波こうは


 光の剣となった正宗から光の刃が放たれ、邪気と瘴気の塊を切り裂いていく。

 振り上げた剣を今度はそのまま下へ振り下ろすと、更に放たれた光が、まるで意思を持っているかのように唸りを上げて、縦横無尽に風神坊の力を切り裂いていく。

 そればかりか、風神坊の力が浄化されていく。

 ぶつかり合った両者の力が、お互いを飲み込もうとするかのように激しくせめぎ合う。

 大きな二つの力はぶつかり合うことで、目に見えない波動を発生させて周囲にしびれにも似た感覚を拡げていく。

 翠の肌にも、少し離れた場所にいる綾子たちの肌にも、その波動は鳥肌となって現れていた。


 「はあぁぁぁ~っ!!」


 翠は気合を込め、正宗の柄を強く握り締めて更に横に一閃、刃を閃かせる。

 一進一退を繰り返す二つの力が、この一撃で一気に翠が優勢となる。

 光の渦となった牙神龍将は更に勢いを増し、まさに奔流となって風神坊の力を浄化し、そのまま風神坊にその牙を剥いて襲い掛かっていく。


 「ば、馬鹿な……っ!?」


 風神坊は体を捻って横に飛んで避ける。

 牙神龍将は風神坊の左足を掠めて空へと向かっていく。その力は牙神龍将の威力を表すように、辺りを覆う闇の力と、その向こうにあった雲まで切り裂いて地上に月の光を届けて消えた。


 「残念、避けられちゃった。」


 渾身の一撃を避けられた翠は力を消耗した所為か、正宗で体を支えて立っていた。正宗の刃は、元の黒銀に輝く無機質な金属に戻っていた。しかしその刃にはひびがうかがえた。

 正宗も翠同様、その力を殆ど使い果たしていた。


 「…正宗、まだやれる?」


 翠の問い掛けに答えるかのように、刃が薄く輝いたが、その光は直ぐに消える。


 『翠、大丈夫か?』


 頭の中に龍鬼童子の声が響く。


 『正宗はもう無理ね。後のことを考えて、正宗の力をメインに据えた所為なんだけどね。』


 それでも、翠も正宗に支えられてやっと立っている状態だった。


 『だから、その術は余程の事が無きゃ使うなっつったんだ。』


 いつもふらふらになる翠を見て、龍鬼童子は何度も警告していた。


 『支龍力だけだから大丈夫かなって思ったんだけどね。』


 支龍力だけだから他の力は残ると思っていた。


 『でも違ってた。どうやら他の力は支龍力に変換されて発動するみたい。』


 今まで支龍力しか使ったことの無い翠は、少し戸惑っていた。


 『当然だ。一つで足りない力は他の力で補うしかねぇだろうが。』


 抑えていたとは言え、それだけ翠は力を放出していたことになる。

 横に飛んで避けた風神坊は、牙神龍将に触れて浄化されてしまった左足を庇うようにして立ち上がる。


 「あら、向こうも意外と被害があったみたいね。」


 翠は足を踏ん張って、正宗を地面から引き抜く。

 すると、正宗は直ぐにその姿を光に変えて消えていった。


 「ご苦労様。ありがとね正宗。」


 力尽きて消えた正宗に、ねぎらいとお礼の言葉を述べて翠は、恐ろしい形相で睨み付けてくる風神坊と対峙する。


 『翠、忘れるな。お前は一人じゃねぇ。力が無きゃ、周りから借りろ。』


 龍鬼童子のアドバイスに翠は頷いた。


 「そうね。大地や草木は随分枯れちゃったけど、まだ大気があるものね。」


 人間一人のキャパシティとは比べ物にならない力の源。

 翠は風神坊が体勢を立て直す前に呪文を唱え始める。


  ―大気に眠りし龍牙よ、

   我が呼び掛けに答え

   目を覚ませ。―


 翠の周囲に緑色の光が集まりだす。だがその光は直ぐにその色を変えていく。


 「これは…。」


 色は赤色に桃色にそして黄色にと、色を変えていき、水色でその色が落ち着いた。


 「聖龍牙力…。」


 自分の周りに集まる力が、予想とは違った為、翠の詠唱が少し遅れた。

 風神坊はその隙を見逃さなかった。

 失った左足を瘴気の風で補い、その風の勢いを使って翠に体当たりを喰らわせた。

 気が逸れていた翠は、せっかく集まった聖龍牙力を自分の力に出来ない上に、風神坊の体当たりをもろに喰らってしまった。

 翠の体は個人結界に守られて、風神坊の体を覆う瘴気の風に触れることはなかったが、体当たりの物理ダメージは防げず、吹き飛んでしまう。

 吹き飛んだ翠の体は水色の光を纏いながら、何度も地面をバウンドし、数百メートル進んだところで木を薙ぎ倒しながら止まった。




 「翠ちゃんっ!?」


 綾子が翠の名を叫んで走り出そうとした。


 「行くな。」


 それを龍鬼童子が大きな腕で行く手を遮った。


 「どいてっ!邪魔しないでっ!!」


 どっちかというと引っ込み思案な印象を持っていた紫と蒼は、綾子の豹変に少し驚いていた。

 光の珠の中には、倒れた木々が映っている。動くものは何も見えない。


 「あなた、翠ちゃんの従鬼なんでしょっ!? 助けるのが普通じゃないのっ!?」


 綾子は籠手に覆われた龍鬼童子の腕を叩いたり、押したり引いたりした。

 だが当然、綾子の力では龍鬼童子の腕はびくともしない。

 助けを求めて紫たちを振り返るが、二人は何もしようとしない。


 「冴種さん、翠を信じてあげて。」


 紫の言葉を綾子は受け入れられなかった。


 「~~何で…何でそんなに落ち着いてるんですかっ!?」


 翠があんな目に遭っているのに、と続けようと光の珠に目をやると、折れた木々の間から水色の光が漏れているのが見えた。


 「翠は諦めが悪いらしくてね、どんな事があっても始めたことはやり抜こうとするんだ。」


 光が強くなっていくのを見ながら、蒼は少しホッとした感じで言った。

 木々の間から溢れる光の中に、動くものが見えた。


 「…翠ちゃん?」


 光の珠に映し出された光景は流石に小さく、その影が翠かどうか、綾子には判別できなかった。

 だが、紫も蒼も安堵した表情を浮かべているから、きっと翠なのだろうと、信じることにした。




 「いったたぁ~~っ。」


 翠は折れた木を押し退けながら、光の中、立ち上がっていた。

 風神坊の突進から、両腕で顔は何とか守ったものの、その両腕は激しく腫れ上がっていた。


 「龍牙の力よ、お願い。」


 翠は目を閉じて両腕に意識を集中した。

 すると、周囲の光が両腕に集まり、瞬時に腫れを引かせて翠の両腕を治癒した。


 「これが聖龍牙力の力。なんて暖かくて優しいのかしら。」


 支龍力も優しく翠を包み込んでくれたが、こんなに安心感を与えられることは無かった。

 この光の中でずっと眠っていたいと思う程、聖龍牙力は翠を心身ともに癒していた。

 周囲から翠の中に集まっていく聖龍牙力。

 翠の中に、二つの術の名前が浮かんできた。


 「…これは…。」


 一つは先程、名前も知らずに使った術。

 そしてもう一つは、信じられない効力を有する術。


 「この術をあいつに使えってことね。」


 この二つが心の中に浮かんできた理由をそう解釈た翠は、光が消えるのを待って一歩足を踏み出した。

 風神坊は追って来なかった。

 浄化された足の負担が大きかったのか、ただの余裕か、とにかく翠は助かった。あそこで追い討ちをかけられていたらさすがにただでは済まなかったかも知れない。

 夜闇の向こうに霞んで見える風神坊の影。

 大事な人達は寺を囲む竹やぶの黒い影の向こう。それでも龍鬼童子の白い鎧が竹やぶの上に覗いて見えた。


 「まったく、こんなときこそ話しかけてきなさいよね。」


 翠は少し毒づいてから、気合を入れ直して走り出した。

 凸凹の田んぼや畦道をものともせず、一気に風神坊との距離を縮めて行く。

 近付くにつれて風神坊の姿がはっきり見えてきた。

 風神坊は獣のように四つん這いになっていた。マンションの地下駐車場で見た闇色の獣がまたそこにいた。


 「…何? もしかしてもうパワーダウン?」


 翠は少し拍子抜けして呟いた。

 だが、そういうわけではなかった。よく見ると周囲の地面がひび割れ涸れ果てていた。


 「貴様もしぶといな。さっきは力尽きているように見えたが…。」


 風神坊はゆっくり体を持ち上げた。その風神坊の左足が復活していた。


 「浄化されると、さすがに腕をくっ付けるみたいに簡単じゃない見たいね。」


 少し歪な形をしている左足を見ながら言葉を続ける。


 「一つ聞いていいかしら?あなたは何をしにこの世界に来たの?」


 翠の突然の問い掛けに、風神坊に答える様子はない。


 「まぁ、期待はしてなかったけどね。」


 風神坊が両手を頭上に掲げて、邪気と瘴気の風を練って先程よりも大きな塊を作り始めた。

 翠もそれに応じて呪文の詠唱に入る。


  ―時の流れに埋もれし数多あまたの龍牙よ

   我が力を道標みちしるべとし

   今、この地へ舞い降りよ―


 翠の体から光が立ち上り始める。

 今度はさっきとは違い、光に色の変化は見られない。常に水色の光が漂っている。

 その水色の光はやはり光の龍となって上空に立ち昇り始めた。


 「くっ!」


 風神坊は少し焦っていた。

 しぶとい翠に致命傷を与えるために、より多くの力を出す必要があった。

 風神坊は翠と違い、効率良く力を集めることが出来ない。自分の周囲の生気を吸い取ったあとは、移動するか瘴気の風で吸い取るしかなった。

 だが今、翠が使おうとしている術が、先程使われた広範囲に及ぶ浄化の術と解り、どうするか迷っていた。

 術が完成する前に攻撃すれば術を防げるだろうが、それでは致命傷を与えられないかもしれない。

 だからと言って、このまま力を溜めていては術が完成してしまう。

 翠の体から立ち上る光の龍は今度は弾ける様子が見られない。


 「違うのか?」


 勘違いかと思い、少し安堵し、再び力を溜めるのに集中した。


 「風神坊、決着をつけましょうっ!」


 翠が叫ぶと、立ち昇る光の龍を伝って、上空から更に眩い光を放つ龍が降りて来た。


 「~っ!?」


 風神坊は上空に突如現れた気配に上を見上げた。

 それは翠から立ち昇る龍よりも遥かに大きく、強大な力を内包していた。


  ―数多の力を抱きし者よ

   その内に持ちたる光にて

   汝が子らに

   等しく癒しを与えよ―


 翠が頭上に両腕を掲げると、上空を漂う強大な龍と、翠から立ち昇る龍が一つになって大きな球体となった。


 「させるかっ!!」


 風神坊にはもう迷っている暇はなかった。

 自らの内に集めに集めた邪気と瘴気の風を最低限残して出し切るつもりだったが、それでは間に合わない。

 風神坊は両手の間に集まった力の塊を、翠に向けて解き放った。

 放たれた力は地面を抉り、巻き込みながら翠を飲み込もうとする。


 「もう遅いよ。」


 翠は全く動じる様子も見せずに、不適に微笑んだ。


  ―龍牙神術りゅうがしんじゅつ 龍皇りゅうこうの光―


 向かい来る闇の力を前にして翠は、術の名前を叫んだ。

 それと同時に遥か上空の球体から光がシャワーのように降り注ぎ始めた。

 その範囲はいったい何処まで広がっているのか、辺りは完全に昼間の明るさを取り戻していた。

 風神坊の闇の力は、見る間に龍皇の光によって浄化されていき、僅か数秒で見る影も無くなってしまった。


 「そ、そんな……。」


 風神坊は自らの身を守りながらも、信じられない現実に動揺していた。

 想定していたよりも力を出し切れなかったとはいえ、それでも全力に近い力を瞬時に浄化されてしまい、これ以上どうすればいいか解らなくなっていた。

 龍皇の浄化の光は、風神坊の攻撃により生気を失った土地・草木を回復していく。

 だが、それはあくまで邪気や瘴気の風により被害を受けた部分のみで、力のぶつかり合いによる波動で崩壊したマンションや、翠が吹き飛ばされてその身で抉った地面や倒した木々は元に戻らなかった。

 龍皇の光は少しずつその力を失い、辺りもそれに従って次第に暗くなっていく。

 闇に覆われていた空も、龍皇の光で浄化され、夕暮れの空のように一番星が輝いていた。


 「ぐぅ、うぅ…。」


 風神坊は癒された大地から生気を吸い取り、龍皇の光に対抗していた。

 しかし、吸い取る力よりも浄化される力が勝り、このままではやられてしまう。

 風神坊はただ耐えるしかなかった。




 昼のような明るさの中、紫と蒼は呆然と眼前の光景を眺めていた。


 「な、何なんだよ、この力は…。」


 あまりに壮大な力に蒼は眩暈を覚えていた。


 「これがさっきの浄化の術の完全版だ。さっきは龍牙の意思の力を召喚していなかったからあの程度で終わったんだ。」

 「龍牙神術って聞こえたけど…。」


 紫が轟音の中、僅かに聞こえた名称を呟いた。


 「楓の術は"龍牙神術"に区分けされてんだ。楓、つまり龍牙神王以外使えなかったというのが理由のようだがな。」


 鎧に覆われた龍鬼童子の表情は見えなかったが、その声音はどこか懐かしそうな雰囲気を漂わせていた。

 綾子は龍皇の光を支える翠の姿に完全に目を奪われていた。

 昼間のような明るさの中でも、一際強く輝く翠はまさに神のような神々しさを纏っていた。

 だが、じっと見ていたからこそ綾子は翠の異変に気が付いていた。


 「翠ちゃん、少しふらついている?」


 綾子の声に紫と蒼も光の珠を見た。


 「確かに、僅かにふらついているようだな。」

 「これだけの力を使っているんだから、消耗も激しいでしょうね。」


 周囲は次第に暗くなり始めていた。空には星々の光が戻り始めている。

 終に翠はがくんと膝を突いた。


 「翠ちゃんっ!?」


 綾子は今度こそ翠に向かって走り出していた。

 龍鬼童子も紫たちも、龍皇の光に圧倒されていた為、反応が遅れてしまった。

 綾子は既に崩壊したマンションを回り込み、龍鬼童子すら手が届かなかった。


 「あいつにあんな運動神経があったのか。」

 「あの子は冴種の出身だからね。村を出るまでは色々と鍛えられてたんじゃないの?」


 紫が結構、呑気に言った。


 「風神坊も随分小さくなってるし、大丈夫だろう。」


 見ると、風神坊は人の大きさ程度にまで縮んでいた。


 「あの子を翠の傍に置いておきたいんなら、少しの危険は味合わせておいても良いさ。」


 蒼は随分、物騒なことを言った。


 「…お前ら…。」


 龍鬼童子は二人の態度に少し呆れていた。




 膝を突いた翠は息を切らしていた。

 龍皇の光は支えを失い、一気にその力を散らしていった。


 「あ、あと少しだったのに…。」


 翠は、自分と大して変わらない大きさになった風神坊を見て、唇を噛んだ。


 (でも、これ以上は力を使えない。あとは、あいつの隙を突いて…。)


 翠は震える足で何とか立ち上がった。


 「お互い満身創痍といったところか…。だが…。」


 風神坊にはまだ、力に余裕があった。

 このまま甦った土地から生気を吸い取って力を回復するのもいいが、先にふらつく敵を倒す方を優先させることにした。


 「我が力となって、消えうせろっ!」


 風神坊は瘴気の風を翠に向けて放った。


 (…動けない。)


 翠は避けようとするが、足が動かなかった。それどころか、膝から力が抜けて倒れてしまう。


 「ちょっと……予想以上に力…使いすぎた、かな…。」


 今日始めて使った術に力の調節が上手く出来ていなかったのだろう。

 だが、倒れることで、瘴気の風を避けることが出来た。


 「無駄な抵抗をっ!」

 「駄目ぇぇ~~っ!!」


 風神坊が次の一撃を放とうとしたとき、綾子の叫び声が聞こえてきた。

 それと同時に、周囲が真っ白に染められた。


 「な、何っ!?」


 風神坊は攻撃を止め、周囲を見回した。


 「これは…。」


 周囲は何も見えなかった。地面も周囲の草木も何も見えない。

 翠は自分の力が抜けていくのを感じた。僅かに残していた力すら、抜けていった。

 唯一見えていた風神坊も、その力を吸い取られているのか、苦しみながら小さくなっていった。





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