この物語は、蝉という言葉が印象的に使われている。蝉は雄しか鳴かず、雌は鳴くことはない。
雄が鳴くのは雌にアプローチする為だ。次の世代へと繋げる為の行動でもある。
では、それが出来ない私達は?
そう問われているような物語だった。
聞こえる筈のない雌の蝉の鳴き声。
それは彼女達の内なる叫びなのだと思う。かといって同性の恋愛を悲惨に書いているわけではない。
主人公が部活をサボったことから始まる後輩との交流は、まるで透明な積み重ねだと思った。透き通った水面を通して彼女達を見守っているような心地になる。
水面に反射した光は彼女達のいる部室をゆらゆらと照らす。静かで心地よいやり取りの奥には決して聞こえるはずのない蝉の鳴き声が繰り返し、聞こえてくる。
蝉と同じく印象に残るのはプールの底から見える空だ。ゆらゆらと揺れる水面の底から見える空を、後輩は見ることが出来ない。
先輩の視覚と言葉を通して絵が出来上がるまでを書く物語は、鮮明な青空と静寂に満ちているような気がした。
完全なる静寂というよりは、音の響く中で、その部屋だけが静けさを湛えているような、不思議な静けさが物語にはある。
その中で交わされるやり取りは瑞々しくて、眩しい。
眩しくて、切なくて、愛おしい。
雌の蝉の鳴き声は聞こえない。鳴くように出来ていないから、いつまでも聞こえることはない。
物語を通してその意味を知る時、どうして蝉だったのか、分かる。
彼女達の聞こえることのない声は届いたのだろうか。
瑞々しい青春を見たい方におすすめの物語です。
後輩の女の子が描いていたのは、キャンバスいっぱいに広がる真っ青な夏の空だった。
「完成したその絵を見せてほしい」
青空の絵に魅了された先輩と、後輩が交わした約束から始まった女子高生の恋の物語です。百合です。念の為。
「先輩が好きだといった、プールの底から見えている空を描きたい」
後輩が願ったとても難しそうなこの題材。ふたりはどう取り組んで完成させるのか。まずそこを気になるポイントとして読んでいたのですが。
私は間違ってた。いやまあポイントはそこにもあるんですけど。でもそこだけじゃなかった……!!
蝉、蝉、蝉。
何度も登場し、タイトルにも使われている虫です。1週間だけ地上に現れ、あっという間に死んでいくこの虫。恋うて鳴き叫ぶ蝉に重ねられる彼女たちの心情に情緒は乱されまくり。こっちまで声高く叫んじゃいそうでした、ほんとうに。
百合とはいえ、どこにでも転がっていそうな青春のほろ苦い恋の1ページ。それをここまで身悶えさせてしまう表現力が凄まじい。
百合は疎い方なのですが、このもだもだ具合が百合やBLからしか得られない栄養というやつなのでしょう。大変な補給をさせていただいて、つやっつやでございます。おすすめです。ぜひ。