第2話 子供達と

夏の日差しが燦々と降り注ぐ縁側。


そこに3人で腰掛け、畑に生っていたトマトを頂いている。



「おじちゃんのトマト美味しい!」


「おいちー!」


「そうか、良かったな。」




トマトは、子供らの嫌い判定に抵触しなかった。今もむしゃむしゃと美味しそうにトマトを齧っている。


その家の奥では、洗濯機がゴウゴウと回っている音。



本当、この箱庭が夏の気候で良かったよ……。



先程のトイレ前の放出騒ぎで、弟君と俺の服は洗濯が必要な状態になってしまった。


自分の粗相に泣く弟君をなんとかあやし、汚れた身体をシャワーで流して服も洗濯した。

洗濯完了を待っている間に畑に生っていたトマトを実食しているんだが、味が濃くて瑞々しい美味しいトマトだ。


それと冷蔵庫に麦茶が入ってたので、ハチミツを溶かして2人に出した。


縁側に座る俺と弟君は、衣類を洗濯中の為タオルを巻いた格好だけど、他に来る人もいないんだ。

気にしない〜気にしない。




「そうだ、俺は箱守優志って言うんだ。君たちの名前も教えてくれるか?」


「ぼく、ダイキ!5歳!」


「コウキ!よんさい!」



お兄ちゃんが襷掛けしていたカバンに名札が入っていたので、それも見せてもらった。


曽我 大樹くん(兄)と幸樹くん(弟)。


話を聞くと、お母さんと買い物に来ていた所を巻き込まれたらしい。2人はお母さんが荷物を買物袋に詰めてる時に、先に店の外に出てしまい運悪くこの召喚に遭った。


結果、母親とは離れ離れになってしまう事に。


う〜〜〜……ん。勢いで2人を連れて来たのはいいが、これからどうするか……。


俺1人ならどうとでもなる……かもしれない。

……だが、幼い子供2人と一緒となると様々な面で難易度が上がってしまう。しかも俺は子育ての経験など皆無だ。


だからと言って、今更見放す事も俺の心情的に無理だし……。もし、俺たちをここへ呼んだ奴等がまともな対応をしてくれるなら、2人を預ける方が良いかもしれないけど、情報が無さ過ぎるんだよね。


それまでは面倒を見よう。そう腹を括った。




「大樹くん、幸樹くん、おじちゃんの話を聞いてくれるか?」


「うん!」


「はーい!」



お、良い返事だ。

これなら話は出来そうだな……理解出来るかはともかくとして。



「2人共、さっきお母さんと買物中に急にピカッとなったの覚えてる?」


「「うん!」」


「おじちゃんもあそこに居た他の人も、みんなピカッとしたら、さっきの知らない所に一緒に来てたんだ。」


「おじちゃん……ここどこ?マイスーパーのあるとこじゃないの?ぼく、お母さんにダメって言われてたのに、先にお店の外に出ちゃった…早く戻らないと怒られちゃうよ……。」



大樹くんが項垂れてそう言うと、幸樹くんも『お母さんに怒られる』の言葉を聞いて、途端に不安そうな顔を向けて来た。



「……きっとお母さんは怒ってないよ。でも2人が急に居なくなって心配してると思う。出来ればおじちゃんも大樹くんと幸樹くんを元の場所に戻してあげたいんだけどさ……どうすれば戻れるのか分からないんだ」


「…………え?………お母さん……ぼく……ぼ…く、っく……うっ………ぅわーーーん!」


「……おにいちゃ………ぐっ…え〜〜〜ん!」



あああ〜〜〜……やっぱり泣かれてしまった。

さっきまでの緊急事態が落ち着いて、一気に不安を感じてしまったんだろう。


何れは知らせなきゃならない事だった。

だけど、もっと上手い言い方は……俺には出来無い。帰る方法が分からないって事を何時までも誤魔化せるはずないしな。

不器用でごめん…。


2人の頭を撫でて、背中を優しくポンポンとする。一頻り泣くと、次第に幸樹くんがグズりながら寝てしまった。

大樹くんはまだ泣いていたが、幸樹くんと一緒に抱き上げてばぁちゃんの部屋まで運んだ。

そこに布団を敷いて一緒に寝かせてやると、暫くして静かな寝息を立てはじめた。



(ふぅ……。こりゃ大変だ。だけど2人が寝ている隙に動かないと………。)



再び、箱庭を出る扉を少し開けると、さっき俺たちが集められていた広間は既に静まり返っている。



………誰もいない?どこに行ったんだ??



少し様子を伺っていると、掃除道具を持った男が2人話しながら広間にやってきた。




「お!今回はそんなに汚れてないぞ!」


「ああ本当だ!良かった〜。前の召喚の時は酷かったもんなぁ……。見せしめに殺された召喚者が3人もいたから、血を拭き取るのも死体を片付けるのも一苦労だったぜ!」


「そうだったな……。しかし王族に反抗するなんて、召喚者って能力があってもバカなのか?俺なら恐ろしくて顔も上げられないよ…」


「だよな。ここでお偉いさんの誰かにかち合ったらたまらない。さっさと掃除して戻ろう!」



そう言って掃除夫達はモップの様な物を手に掃除を始めた。



……はぁ?!見せしめに殺した?!


その話が本当だとしたら、こんな場所さっさと離れるに限るんだが、如何せんなんの話も聞かずに『箱庭』に入ってしまい、詳しい事がさっぱり分からない。


部分的にしか聞いて無いけど、あの王子様が演説していた『国の為に力を貸して』って内容は、だいぶ強制的にって意味合いが強そうだ。


だから抵抗した者を見せしめに殺した?


それに今回が初めての召喚じゃ無いんなら、なんの必要があって力を求めているんだ?



とにかく、今はここからの脱出方法の確保と出た後の生活基盤の構築をどうすれば良いか考えないと。


幸い『箱庭』の中から出なければ、外からは見えないらしい。


なんたって、掃除夫が今まさに俺の目の前に来て、床の拭き掃除をしているのに、気付きもしないんだからな。試しに中から声を出してみても無反応だった。


それにさっきは、当たり前の様に『箱庭』のトイレと洗濯機、冷蔵庫の中身を使っていた。庭のトマトも食った。電気なんて通電してるはずも無いのに、洗濯機は動き、冷蔵庫の中はしっかり冷えていた。摩訶不思議だな〜。


この『箱庭』が、俺のイメージや思い出で作られているからなのか? 


俺は扉を閉めて中に戻ると、改めて家の探索を始めた。


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